2025/07/26
7月16日、中国北京市の裁判所は、アステラス製薬の60代日本人男性社員に対し、「スパイ活動
を行った」として懲役3年6か月の実刑判決を言い渡した。この事件は、2014年に施行された中国
の「反スパイ法」に基づくもので、近年、同法による日本人拘束が相次いでいる。今回の判決は
、日中関係の改善が期待される中、さらなる邦人拘束の増加を招く恐れがあり、両国間の緊張を
高める要因となりかねない。
事件の背景と反スパイ法の影響
この日本人男性は、2023年3月に北京で国家安全当局に拘束され、2024年11月に初公判が非公
開で行われた。具体的なスパイ行為の内容は明らかにされていないが、中国当局は「国家の安全
と利益に関わる情報」を不法に収集したと主張している。判決後、日本側は「裁判の透明性が不
足している」と批判し、早期釈放を求める姿勢を強調した。男性は上訴の可能性を弁護士と協議
中だが、拘束の長期化は避けられない状況だ。
中国の反スパイ法は、2014年の施行以降、2023年7月の改正で対象範囲が拡大。「国家機密」
に加え、「国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品」の窃取や提供がスパイ行為と
定義された。しかし、その定義の曖昧さが問題視されており、日常的なビジネス活動や情報交換
が当局の恣意的な解釈でスパイ行為とみなされるリスクが高まっている。これまでに少なくとも
17人の日本人が同法で拘束され、12人が実刑判決を受けている。2025年5月には上海で別の日本
人男性に懲役12年の判決が下されるなど、厳しい取り締まりが続いている。
日中関係への影響
日中関係は近年、経済的な結びつきの強さから改善の兆しが見られていた。2024年の日中首脳
会談では、両国は経済協力や人的交流の拡大を謳い、緊張緩和を目指す姿勢を示した。しかし、
今回の判決はこうした努力に水を差す結果となった。特に、日系企業で働く駐在員の間に不安が
広がっている。アステラス製薬の男性は中国日本商会の副会長を務めるベテランだったが、こう
した高位のビジネスパーソンでさえ拘束される事態は、日本企業の対中投資意欲を冷やす要因と
なる。2023年の改正反スパイ法施行後、外資企業の対中投資はすでに減少傾向にあり、今回の事
件で「中国離れ」が加速する可能性がある。
さらに、2025年2月には北京市で入管法違反を理由に3人の邦人が拘束されるなど、反スパイ法
以外の法令も活用した取り締まりが強化されている。全国人民代表大会(全人代)前の摘発強化
が背景にあるとみられ、中国当局が政治的意図で邦人を標的にする可能性も否定できない。
今後の邦人拘束のリスク
反スパイ法の曖昧な運用が今後も邦人拘束のリスクを高める。中国当局の監視体制は天安門事
件以降一貫して厳格であり、共産党の一党独裁を守るため外国人への締め付けが強まっていると
。また、改正反スパイ法ではサイバー攻撃や第三国に関する情報収集も対象に含まれるため、日
常的な業務や会話がスパイ行為とみなされる危険性が増している。
例えば、2016年に拘束された鈴木英司氏は、北朝鮮問題について中国外務省関係者に質問した
ことがスパイ行為と認定された。このケースは、通常の情報交換が当局の恣意的な判断で罪に問
われる実態を示している。 日本政府は在外邦人に対し、「安全の手引き」を通じてスパイ行為と
みなされる可能性のある行動への注意を促しているが、具体的なガイドラインが不足しており、
企業や個人の予防策には限界がある。
日本政府の対応と課題
日本政府は、拘束された邦人の早期解放を求める一方、外交交渉での成果は限定的だ。今後、
日中関係の改善が進まなければ、邦人拘束の増加は避けられない。中国当局が外交カードとして
邦人を利用する可能性も高く、特に全人代や国際的な緊張が高まる時期に摘発が集中する恐れが
ある。 日本企業は、従業員教育やコンプライアンス体制の強化を迫られるが、どこまでリスクを
軽減できるかは未知数だ。
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