2024/11/16
ODA(政府開発援助)事業における日本の国際的な信頼が揺らいでいる。事業の日本側の実施機関であるJICA(国際協力機構)の男性職員が、フィリピンの鉄道改修業務の見積額など秘密情報を東京都内の建設コンサルティング会社に漏えいしていたことが発覚したためだ。「みなし公務員」であるJICA職員は公務員としての守秘義務に加え、国際協力機構法でも罰則付きの守秘義務が課され、入札情報の保秘徹底が厳守されるべきなのは言うまでもない。ただ、前代未聞の不祥事にもかかわらず、JICAはこの職員を停職1か月の懲戒処分にしただけの「とかげの尻尾切り」で事態を終焉させようとした。関係者からは組織的なコンプライアンス意識の低さを批判する声が上がっている。
▼後手の対応に外務省も怒り
日本が発展途上国を支援するODAに参入してちょうど70年目。今回の職員による情報漏えいは、長年にわたり日本が築いてきた歴史に泥をぬるともいえる大問題だ。だが、JICAは当初、職員の懲戒処分については7月8日に「調達手続きに関する秘密情報を漏えいした」とホームページ上で短く公表したのみ。「ODA」の単語にすら言及せず、普段からJICAを取材する機会がある外務省記者クラブへの周知も行わなかった。
事態が急変したのは10月中旬。読売新聞が10月14日朝刊1面トップで「JICA情報漏えい疑い 比ODA 入札参加企業に 職員を懲戒処分」とスクープしたのがきっかけだった。報道で国際的な不祥事が公になり、内閣官房副長官が定例記者会見で説明に追われる事態に発展した。11月になってからは、JICAが元検事長の弁護士を委員長とする外部有識者らによる検証委員会をたちあげた。
あるJICA関係者によると、今回の問題は不祥事を調査する部門のほかにはごく一部の役員らにしか知らされていなかったため、多くが読売新聞の報道で把握したという。読売新聞は「(JICAは)円借款の相手国や対象事業などは現在まで明らかにしていない」と報じており、報道機関に不祥事を突き付けられながらも、何とか詳細を伏せようとするJICAの「隠蔽体質」が垣間見える。
外務省関係者は「読売の報道が出た後にフィリピンのODA事業だと認め、当初は想定していなかった検証委員会を発足させるなど、全ての対応が後手になり、組織として恥ずかしい」と呆れるばかりだ。
今回の情報漏えいが判明したのは、日本と約381億円の円借款(有償資金協力)契約を結び、フィリピン政府が発注したマニラ首都圏の都市鉄道改修事業のうち施工管理業務について。職員は2018年5月頃、施工管理業務の入札参加が見込まれていた東京都内のコンサル会社の社員に対し、JICAが現地調査などで算出した見積額や、比政府が作成した業務内容などを複数回にわたりメールで漏えいしたとされる。
途上国のODAでは、JICAが算出した事業の見積額を参考に相手国政府が入札予定価格を決めるため、前出の外務省関係者は「見積額=入札予定価格といっても差し支えはなく、今回の漏えいは、実質的に官製談合のようなもので悪質だ」と憤る。
▼検証委 生半可な調査許されず
職員はJICAに対し、漏えいした動機については「入札不調などで事業が停滞するのを恐れ、受注企業を事前に確保する狙いがあった」と説明しており、日本企業側から金銭の授受は確認されなかったという。事業の見積額という重要な入札情報を秘密裏につかみ、実際にJV(共同企業体)として事業を受注した東京都内のコンサルタント会社の責任も本来は見逃せない。日本の巨額の税金が投入されているODA事業に参画するからには、企業としての説明責任を果たすべきだろう。
職員の懲戒処分からちょうど4か月後の11月8日に急きょ発足した検証委員会。JICAは「問題を再検証し、再発防止策を検討する」としているが、検証委がどこまで調査範囲を広げるのかは不透明なままだ。処分された職員にとどまらず、上司らの責任など組織的な問題に切り込み、フィリピン以外の国のODA事業も含めた幅広い調査が求められる。職員による情報漏えいと、不祥事情報の「隠蔽」で失った信頼を回復するには、生半可な対応では許されない。
TIMES
政治•経済 社会•事件


