社会•事件 3800億円で西友買収 九州の“コンピュータ付き川筋者”「トライアル」の東京侵攻作戦
3800億円で西友買収 九州の“コンピュータ付き川筋者”「トライアル」の東京侵攻作戦
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2025/03/16

地方が首都圏を飲み込んでいく。流通業界、下剋上の時代が始まった!

(写真 トライアルホールディングHPより)

 3月5日、ディスカウントストア「トライアル」を運営するトライアルホールディングス(HD)が、老舗総合スーパー「西友」を買収すると発表した。買収額は3826億円で、米投資ファンドKKRなどから7月1日までに西友の全株式を取得する予定だ。単純計算で両社の売上げは、1兆2000億円を超え、小売業では、セブン&アイHD、イオン、ファースト・リテイリング(ユニクロ)、パン・パシフィックHD(ドンキ)、ヤマダHDに次ぐ第6位に躍り出る。スーパー業態ではセブン、イオンに次ぐ第3位企業の誕生となる。

 九州を中心に全国に店舗を拡大させてきたトライアルは、地方を中心に343店舗を構えるものの都内には1店舗もなく、首都圏の強化は喫緊の課題と言える。一方の西友は関東地方を中心に242店舗を構え、都心の主要駅など好立地の店舗が多い。立地的にはこの2社は補完関係にあり、特にトライアルからすれば首都圏進出の足がかりとなり、万々歳にみえるが、落ちぶれたとはいえ大店の娘が、福岡の“コンピュータ付き川筋者”に嫁ぐようなものだとの見方をする向きもある。

 トライアルの発祥は、1974年に福岡市で創業したリサイクル店だ。80年代にPOSシステム開発などIT分野に進出し、そのシステムを武器にして1992年、現在HDの代表取締役会長である永田久男が小売業に参入した。永田会長が家業の小さな町の電器店を継ぎ、東証への上場(昨年3月)を果たすまで成長した巨大小売業を育て上げたことは、山口県の小さな洋品店を継ぎ、ユニクロ(ファーストリテイリング)に成長させた柳井正取締役会長兼社長の相似形といえるかもしれない。来店客層についても年齢層は、若年から高齢層まで幅広い。九州都市の中心部にある深夜営業店などでは、日本国内で就労する外国人の来店が多い。そのあたりはドンキ店と似ている。同社は永田会長が名付けた「リテールテック(流通情報企業)」で流通産業に革命を起こした先進企業として名高い。例えば、商品をかごに入れる際、会計に必要なバーコードを客が読み取るという「タブレット付き買い物カート(スマートカート)」はその代表例だ。このカートを使うことによって、単にレジ待ちがなくなるだけでなく、店内で何をどういう順番で買ったかといったデータが得られるほか、目の前のタブレットに店舗内の適切なタイミングで広告を流したり、クーポンを配布したりすることもできる。このシステムを開発したのが、永田会長の子息であり、HDの永田洋幸取締役だ。永田取締役は創業者の子息で、米コロラド州立大学を経て、2009年中国・北京にて小売企業向けコンサルティング会社や11年には米シリコンバレーにてビッグデータ分析会社を起業した。15年トライアルグループのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)に従事し、シード投資や経営支援を実施した。18年より現職。九州大学工学部非常勤講師を務めるほどのIT専門家だ。

元バンカーが大ナタを振るった、その結果…

 そしてもう一人、HDの代表取締役社長、亀田晃一は、富士銀行(現:みずほ銀行)から永田会長にスカウトされ08年にトライアルカンパニー(HD傘下の店舗展開、運営会社)に入社すると倒産が噂された同社の業績改善に尽力し、積極出店を続けるなかで、有利子負債のカットにも成功する。また自己資本も手厚くするなど財務の強化に加えて、売上高も伸び、倒産の二文字を打ち消した功労者だ。トライアルカンパニーは積極的にM&Aに打って出て、九州地盤の寿屋やニコニコ堂、オサダ、カウボーイの株式30%をゴールドマンサックス社から買収(2010年1月に吸収合併)するなど居抜き出店などを駆使して急伸した。ただ当時から離職率はかなり高く、ボーナスはないに等しく、残業代なし、昇給は少額で、売り上げノルマが未達成の店長には容赦ないなどブラック企業視される一面もある。各店の店長が若いことも特徴のひとつ。40歳以上の店長は皆無であり、35歳前後でエリアマネージャーやバイヤーになる。経験の浅い店長でも店舗運営ができるようオペレーションが整備されていることも大きいが、その分給料は安く、それを理由に転職希望者は多い。この企業体質が西友の経営風土と合うかどうかが、東京侵攻作戦のカギとなろう。同社およびグループ会社には、国内外の投資家からの資金誘導が不可欠であるために10年ごろから上場を視野に入れ動いてきたが、それが14年も経ってやっと上場に漕ぎつけたのはなぜか。上場の実質審査基準には、「企業の存続性」「健全な企業統治及び有効な内部管理体制の確立」「企業の信頼性」「企業内容等の開示の適性性」などが問われるが、どこかでクリアできない部分があったからだ。上場の障害になったのは10年4月に起きた万引き事件だ。1377円相当の商品を万引きした男性に、「お前がやった1年間の万引きの被害総額は109万円だ」などと迫って現金50万円を脅し取ったとして、岡山県警は、「スーパー・トライアル倉敷店」(岡山県倉敷市玉島)の店長や保安員ら3人を恐喝容疑で逮捕した。トライアルの定めた万引き防止・対処マニュアルには、過去の被害額を請求することは定められておらず3人はマニュアルを逸脱していたが、同県警は本社を家宅捜索している。その翌日、どの店舗にも事件の説明やお詫びの張り紙はなかった。しかも事件後しばらくしてこの倉敷店の事件の釈明文は同社のホームページから削除された。この辺りの同社のコンプラが上場基準に抵触したのかもしれない。

 同社は首都圏攻略の青写真をどう描いているのだろうか。同社はイオンの「まいばすけっと」のような小型店「TRIAL GO」を擁している「GO」は都市部で展開する面積1000㎡以下の小型店で、顔認証などによる無人レジを始め、徹底的に自動化・省力化を図った店舗だ。近接する大型店から作り立ての総菜や弁当を「GO」に配送する方式を採っており、首都圏の西友の周辺に「GO」を出店する方針を明らかにしている。福岡では「GO」はコンビニキラーと呼ばれ、出店した近接のコンビニの売り上げが激減する事象も起きたという。西友はセゾングループ解体後、米ウォルマートや米投資ファンドKKRと楽天などが経営権を取得し再建に取り組んできたが、世界のウォルを以てしても再建はできなかった。西友は“コンピュータ付き川筋者”の気質に耐えられるか。

 

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