2024/11/08
ある弁護士が申請した再審
今からさかのぼること23年数ヶ月。あの忌まわしい事件が起きた。
和歌山カレー事件――。
和歌山市の北はずれ、平凡な新開地。夏祭りで賑わっていた地元の憩いの場だった原っぱは、そこで提供されたカレーを口にした4人が激しい苦悶とともに命を落とし、たちまち阿鼻叫喚の地獄と化した。
犯人は、元保険会社外務販売員、林眞須美(60)。死刑確定。ただし、動機は不明のままである。
死刑囚の執行はいつなのか?(死刑確定から、すでに12年が経っている)、そんなことばかりが、ときどき話題になる昨今だったが、ここに来て、この事件は注目を浴びることになる。
生田暉雄という一介の老弁護士が(第二次)再審請求を行い、受理されたのだ(2021年5月31日)。この期に及んで、審理は一旦振り出しに戻ることになる。
再審請求というのは、よほどの条件がそろわないと受理されることはない。それはそうなのだ。最高裁で確定したものをもう一度見直してくれ、というのだから。そんな要請をホイホイ受理していたら、それこそ、司法そのものが成立しなくなってしまう。再審請求が受理されたその日、林眞須美死刑囚の長女がふたりの娘を伴って関空の連絡橋から身を投げた。そんなことも相まって申請受理は大いに波紋を投げかけた。
生田弁護士の主旨は、確かにあっと言わせる内容だった。加えて、それは決して荒唐無稽ではなく、且つまた、取るに足らないものでもない、と判断されたのである。言ってみれば司法のお墨付きをもらったわけだ。
生田弁護士が、再審請求にあたって真っ先に論ったのが、この事件で使われたのは、ヒ素などではなく、青酸カリだった、という点である。
再審請求では、夏祭りで用意されたカレー鍋にヒ素をぶち込んだことで起きたという事件の根幹部分をいきなり否定したところから再審の請求がなされている。和歌山ヒ素カレー事件ではなく、青酸(カリ) カレー事件である、と生田弁護士は声高に主張するのだ。
和歌山県警の初動捜査
振り返ってみると、事件発生時は、警察発表から報道は、例外なく、『青酸カレー』、としていた。例えば、事件直後の朝日新聞1面記事では、『カレーに青酸 4人死亡』という見出しが踊る。他の新聞もこれと異口同音だった。
新聞記事は、警察発表に基づいているから(警察情報の垂れ流し)、当然、警察は最初から青酸カレーという見解だった。
それもそのはずである。第一死亡者の司法解剖(於;和歌山県立医科大学)で、青酸カリによる中毒死と判断されたのだ。
ところが、数日が経過して、この厳然たる事実がひん曲がってくる。
カレー鍋に混ぜられた毒物は、青酸カリではなく、ヒ素である、というように変わってくるのである。同時に警察の鑑定もいつしか青酸の文言はフェイドアウトしていき、以降、ヒ素だけに絞られてくる。
最先端の科学捜査を実践しているはずの日本警察において、このような変容はまず前例がない。
事件発生から四日目の7月29日付けの新聞の見出しに、ヒ素は初めて顔を出した。
この頃から速やかに青酸は事件の主役から下ろされ、替わってヒ素がその座を奪い取る。この主役交代で、事件は一気に新しい展開を迎える。
事件捜査で最も大切な期間は初動(捜査)と言われる期間である。特に〝発生もの〟といわれる殺人や傷害事件では、初動捜査如何で事件解決は決まってしまう。つまりこの期間でしくじるとその事件はいわゆる〝お宮入り(迷宮事件=未解決事件)〟となる。これにはほぼ例外はない。
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