2025/09/28
藤原さんとは春待ち疲れバンド以外の店にも時々出演した。ライブでは藤原さんがいつも
酔っぱらっているのでグダグダになる。よくしゃべる藤原さんの話でウケているのは俺だ
けだ。客のまばらな客席はすっかり冷え切っている。ステージを見る少数派の客も愛想笑
いが苦笑いに変わってしまっている。ただ、俺たちはそんなことはまったく気にしない。
俺たちのファンなんていないし、どうせたまたまその店で居合わせただけなのだから。
「藤原さん、何飲んでんすか」
「何よ、勘違いにしないでよ、ビールなわけないでしょ、グラスに入っているのは無色透
明なんだから」
「余計に怪しいっす」
「俺を疑ってるの?だったら一口飲んでみろよ」
「うわっ、これ日本酒ですやん」
「そうだよ、無色透明の日本酒ですよ」
「良いんすか、ステージ中に」
「良いわけないけど君がばらしてくれたから今からは良くなった」
「良くなるわけないでしょ」
「だって、もう隠す必要がなくなったんだもん、さかもっちゃん、テンキュ」
てな感じである。藤原さんは俺がメインで歌う曲を演奏中にトイレに吐きに行ってしまっ
たことすらあった。
「藤原さん、吐きに行ってたんでしょ。酷いじゃないっすか、焦りましたよ」
「緊急事態でトイレに行っただけやよ、知ってるだろ、道路交通法でも5分以内の放置は
認められているんだから」
「それはドライブの時の話。今はドライブ中じゃなくてライブ中ですから。ダメっすよ」
「トイレぐらいええやろ」
「どうせ上から出したんでしょ」
「上からだけやなくて下からもよ」
「えげつな」
「そんなこと言うけど、歌いながら吐くよりええやろ、そないなことになったらお客さん
がえらいこっちゃになるやんか」
「そりゃそうやけど」
「緊急事態にステージでは吐かずにトイレに駆け込んだんやから俺ってすごいお客さん想
いやん。お客さんをまずは守ることを優先したんやから、褒められることはあっても叱ら
れることはありえへんやろ」
「まあねぇ~って、そんなわけあるか!飲みすぎなんや!」
「さて、次の曲を聴いてください、〝ラブフォーエバー″」
という具合だ。ゲロの話の後に何食わぬ顔をしてラブソングを歌ってしまうデリカシーの
なさである。(つづく、坂本雅彦)
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