連載•小説 没後20年、戦争を危惧した後藤田正晴いまありせば 元官房長官秘書官 平沢勝栄が語る 第6回
没後20年、戦争を危惧した後藤田正晴いまありせば 元官房長官秘書官 平沢勝栄が語る 第6回
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2025/06/12

憲法は合憲と主張

香村 後藤田さんは北方領土問題とか沖縄問題、例えば日米合同委員会の問題ですね。それに対して、ご意見がありましたか?

平沢 アメリカに対して、ある程度、自立性というか独自性を持てというか、要するにアメリカのポチにならないで、しっかり独立国日本としてやっていかなければだめだと。これはいつも言ってました。今の時代から、あの時代を見たら余りに日本はアメリカに忠実過ぎると思うでしょう。

香村 後藤田さんとしては、改憲問題はどういうふうに考えていたんですかね? 憲法改正について。

平沢 当時は憲法改正を言っただけで閣僚の首が飛んだ時代です。直接には聞いてませんが、後藤田さんは間違いなく、安全保障の問題では現行憲法支持だと思います。後藤田さんからすれば、憲法九条などはよくできている、大変な犠牲を払って、日本はやっといい憲法を持ったという考え方でないですか。日本は最近、敵基地攻撃や集団的自衛権、武器の輸出など、今まで行われていた規制がどんどんなくなっています。どれ一つとっても、後藤田さんならば目玉を三角にして怒ったでしょう。私は警察を辞めて、政治家になってからも後藤田さんのところに定期的に行ってましたが、既にこの時に後藤田さんは「戦前に戻りつつある。これからの日本はどうなるのかね」と盛んに言ってました。

香村 田中角栄と少し時代認識が似てると思うんですけど、結局、自分たちの世代で戦争を知っている人間がまだ生きてる時代であれば、戦争が起こる可能性というのは、まあ少ないだろうと。ただ戦争を全く知らない世代がたくさんを占めた時には、少し心もとないというような発言をですね。

平沢 規制がないとブレーキが効かなくなる、日本は憲法に関係なく、外国と同じように戦争をする国になってしまうということを心配していたのではないですか。後藤田さんだけじゃなくて、あの宮澤喜一さんなんかもそうでしたけど、戦争を知らない世代がこの国の舵取りをするようになった時に日本は本当に大丈夫かなと心配していた。今の若い人はみんな戦争を知ってるわけじゃない。ゲームで知っているだけだと繰り返し言っていた。

香村 あの方にとっては、もう知らないこともないぐらい情報通だと思うんですけど、いわゆる核の密約というものについてはどう考えていらっしゃったんでしょうか?

平沢 私はそこを聞いたことはありません。推測するに、そういう密約みたいなものは、もしあったということであれば、今と情勢が大きく違うから何とも言えないが、それでも後藤田さんは烈火のごとく怒ったでしょう。

香村 本人の認識としては、核は密約があると。

平沢 そのこと自体より、密約したりする体質があり、それがどんどんエスカレートするということを心配したのでしょう。歯止めがあって、そこから一歩も出ないように押さえ込んでいても、簡単にそれを崩すことができてしまう。前に進むことができるとなると、規制の意味は全くなくなる。それを防ぐには実効性のある歯止めをかけなきゃならないし、その歯止めを緩めるときは、公の場で、きちんとした議論を経て、そして国民の支持を得てやらなきゃならない。それをしないで一部の人だけでやると、また戦前みたいなことになってしまうんじゃないかということを大変心配していたといえます。

香村 先ほど世論調査を非常に重視されていたということですね。つまり世論、国民の意見がどこにあるかということを把握すると、これに基づいて世論に訴えていかなくちゃだめだという――

平沢 参考にしてるんですね。世論調査だから必ずしも100%正しいわけじゃないけど、これを極めて重く受け止めて、内調から情報提供を受けていたということです。

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