連載•小説 オランダ商館長「殺す相手は息子ではなく父・意次のはずだった」
オランダ商館長「殺す相手は息子ではなく父・意次のはずだった」
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2025/07/10

 オランダ商館長ティチング『日本風俗図誌』には、先に述べたような田沼意知暗殺時の詳しい
状況とともに、「諸事情から察するに、幕府の最高位にいる数名がこの事件に関与しており、
この事件をそそのかせたように思われる」と、かなり明快な記述が残っている。
さらに、「もともとこの暗殺の狙いは、田沼主殿守(意次)と山城守(意知)改革を妨げるた
めに、その父親のほうを殺すことにあったとも言われている」として、将軍家治と昵懇な意次・
意知親子の一族が続々と要職に就き、改革を進めていく流れを止めるには、高齢の意次より息
子を亡き者とすれば、意次にもこれ以上の痛撃はない、とい断定調の記述があるのだ。
さすがに暗殺の首謀者について実名では書かれていないが、あまりに詳細な記述には相当の信
用を置いてもよいと思われる。ティチングは「才幹あり進取の気性に富む山城守(意知)に大
いに期待されていた」と、意知について日本の将来を考えるただ1人の人材だったと評価し
、「意知が殺されたことで、日本が外国人に開放され、日本人が他国を訪問する時代が来ると
いう希望はまったく絶たれてしまった」と残念がっている。(つづく)

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