2025/01/30
浮世絵は江戸時代に描かれた当世風――当時の流行や風俗――の絵画全般を指す。もともと色を重ねないモノクロの版画で、その上から手で色を塗る丹絵(橙色)、紅絵(紅色)、漆絵(墨に光沢)が次々と出現した。1740年代には複数の色をズレぬように重ねて摺る技法が出現し、紅・草・黄3色の紅摺絵が登場した。
蔦重が耕書堂を立ち上げる少し前の1765(明和2)年頃、ある版元から絵暦、つまり絵入りのカレンダーが売り出された。これが従来のものより格段に美しい多色刷りの美人画で、大きな評判を取った。
絵師は鈴木春信。現在も喜多川歌麿らとともに美人画の代表的な絵師として世界的な人気を誇っている。さらに鳥居清長、歌川豊春、役者絵の鳥居清満などの優れた絵師たちが続々と登場し、この多色刷りの浮世絵は錦絵と呼ばれるようになる。
錦絵に対する人々の驚きは、現在の我々が3DやVRを初めて観たときのそれと似ているかもしれない。単価が安く大量生産・大量消費できる錦絵は、庶民層から富裕層、武士階級と幅広く拡散する一大メディアとなっていく。
これに目を付けた蔦重は、100枚以上の大判の錦絵セット『雛形(ひいながた)若菜初模様』を世に送る。花魁を始め遊女・禿(遊女見習い)たちが最新のデザインの衣服姿を描いた、言わば豪華なファッションカタログ。知る人ぞ知る絵師・礒田湖龍斎の代表作だ。
『雛形若菜』は浮世絵の商業性、芸術性に新たな可能性を見出し、その歴史を変えたと言われる。何より、訪れたことのない人々にまで吉原の視覚的情報を伝える手段――メディアを得たことが、蔦重にとって大きかった。(つづく)
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