連載•小説 短期集中連載 現役国会議員秘書 世良 直のヒストリカルスクープ!黒人侍「弥助」は実在したのか その3  ゲーム「アサシンクリードシャドウズ」による杜撰な歴史考証
短期集中連載 現役国会議員秘書 世良 直のヒストリカルスクープ!黒人侍「弥助」は実在したのか その3  ゲーム「アサシンクリードシャドウズ」による杜撰な歴史考証
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2025/04/04

トーマスロックリー氏の著書は壮大なファンタジー

 弥助に関する歴史的資料が非常に少ないことから俄然注目されるようになったのが、トーマスロックリー氏の著作「信長と弥助、本能寺を生き延びた黒人侍」(太田出版)である。この著書に著わすほどの弥助に関する史実は無い。上記に記した歴史的資料に残された情報以外は壮大なファンタジーである。トーマスロックリー氏も推測や憶測、希望的観測であることを隠しはしないが、問題は時代考証がハチャメチャであること。例えば、「地元の名士の間ではキリスト教徒であろうとなかろうと、権威の象徴としてアフリカ人奴隷を使うという流行が始まったようだ。」“ようだ”と付せば何を書いても良いというわけではない。フィクションは歴史的資料が僅かしか残されていない弥助に関する推測であって背景となる時代考証は確かなものだと受け止める読者も少なくないだろう。弥助は扶持を与えられていたことが資料に記されていることから奴隷ではないだろう。黒人を雇う日本の名士はいたが日本国内でアフリカ人奴隷を使うことが流行ったという史実は残されていないはずである。ルシオ・デ・ソウザ & 岡美穂子「奴隷たちの世界史」によると「航海王子」の名で知られるアヴィス朝のエンリケ王子(1394~1460年)の指揮下でポルトガルは本格的に海外進出に乗り出します。16世紀以降、新大陸の金鉱脈発見などにより金の価値が下落し始めると、奴隷が主要な貿易商品となっていきます。ポルトガル人たちはサブサハラ諸王国間の戦闘で発生する捕虜やムスリム商人との取引で、無尽蔵に奴隷を入手することができていました。アフリカ人奴隷を確保し奴隷貿易を本格化させたのはポルトガル人である。17世紀にはいるまでは奴隷貿易はポルトガル人の独占状態であった。同著では日本で布教活動を始めていたイエズス会は、ポルトガル人の貿易活動全般に関わり、16世紀末までは決して積極的とはいえないまでも、人身売買にも関与していました。ポルトガル人が日本で購入してよいのは「合法の奴隷」のみとされており、その合法性を証明する「セデュラ」と呼ばれる保証書を発行するのはイエズス会宣教師の仕事であったからです。と記されている。大航海時代の寵児であるポルトガル人は日本人を奴隷として世界各国に輸出していた。ポルトガル人の奴隷貿易はインド人に始まりアフリカ人、アジア人にまでラインナップを拡大していった。では、日本国内でアフリカ人奴隷が流行したのか。トーマスロックリー氏の著書にある「イエズス会は清貧の誓いを立てて奴隷制に反対しており、通常はアフリカ人を伴うことはなかった」は相当違う。イエズス会は岡美穂子氏も指摘しているが国籍を問わない下人を伴っている。そして、ポルトガル人は奴隷貿易に立役者であり、イエズス会は日本人奴隷を世界に輸出する供給側の既得権益者である。イエズス会はトーマスロックリー氏の著述とは真逆の存在と察する。8世紀半ばくらいまで日本にも官奴婢・私奴婢が存在していたのは事実。日本に差別階級が存在したのも事実。渡来人が奴隷を連れていたことがあるのも事実。だが、弥助が黒人奴隷の流行の発端になったかどうかは資料が残っていないのだから誰も知らないはず。そういう意味でトーマスロックリー氏の記述は不確定なものと言える。

 トーマスロックリー氏の「信長と弥助」(※写真)には以下のような出版社による紹介文が記され
ている。
 1582年、本能寺。織田信長の側近のなかに、特異な容貌でひときわ眼を惹く男がいた。その男こそ、日本史上初とされる黒人侍、弥助だった。信長の切腹後、弥助は危険をかえりみず、嫡男の信忠のもとへと走る。彼を駆り立てたのは、自分を信頼し、侍へと取り立てた信長への忠義心だった……。国内のみならず海外でも注目を集める異色の黒人侍、弥助。その知られざる生い立ちから来日にいたる経緯、信長との出会いと寵愛、本能寺後の足取りまで、詳細に踏み込んだ歴史ノンフィクション。弥助に関する情報はほとんど残されていない。新しい歴史的資料が発見されない限り弥助の生い立ちや来日の経緯など知りようもない。ノンフィクションとすることには偽りがある。本文の中にも推測と銘打っているように内容はフィクションに過ぎない。英語版であるYasuke: The true story of the legendary African Samuraiも誇大したタイトルをつけていて問題がある。「伝説のアフリカ人侍の実話」と解せるがこちらもその内容はフィクションに他ならない。「信長と弥助」とはタイトルも内容も違うことから別物の作品であろうが、いずれにせよ弥助に関する多くの史実は残されていない。

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