連載•小説 大阪ロマンボーイズ 坂本雅彦
大阪ロマンボーイズ 坂本雅彦
連載•小説

2024/11/24

「坂本、お前は戦争に反対するのか」

「はい、もちろん、戦争なんてしないにこしたことはないと思うっす」

「何を生ぬるいことを言うとんねん」

「え、どういうことすか」

「俺はな、戦争反対に反対しとんねん」

「というと、戦争賛成なんすね」

「違うわ、戦争反対っていう口だけ野郎が嫌いなんじゃ」

「ん?」

「戦争反対に反対するというのは、自衛隊なんかを持ちながら言うことではない、攻撃も防御もなく、丸腰で戦争反対を叫べと俺はいうてるんや」

椎野さんに深入りしてはいけないと俺は反射的に感じていた。

椎野さんと若狭さんと三宮で朝まで飲んだ帰り道のことである。椎野さんは阪神電車で帰るが、俺と若狭さんは始発の阪急電車で帰るので駅の周辺で別れた。三人ともしこたま酔っぱらっていた。椎野さんと別れた数十秒後に〝ボン″という低く鈍い音がした。すかさず振り返った俺と若狭さんの目に人の身長くらいの高さの火柱が上がっている光景が飛び込んできた。そして、その火柱の向こうに背を向けて歩いていく椎野さんの姿があった。俺はそれから数日間、三宮での火事が報道されていないか新聞の地域面をチェックしていたが結局そのような記事は出ていなかった。これは椎野さんが酔うと言い出す〝カクメイ″というやつなのか。人は見た目に寄らない。大人しそうに見える彼はカクメイの戦士としてひっそりと生きて行くのだろう。

高野さんは大阪は平野区の金融屋の息子である。藤田さんほどではないがそこそこの金持ちの息子だ。最新のスカイラインを乗り回していた。実家住まいだが、大学の近くに月極の駐車場を借りて自家用車で通学をしていた。野球同好会の先輩だったが野球は凄まじくへたくそだった。

「高野さん、なんであんな平凡なライトフライを落球したんすか」

「太陽がまぶしかったんでグローブをかざしたら、グローブが邪魔でボールが見えなくなって」

「グローブが邪魔って?グローブでボールを捕るんすよね」

「おい坂本、それだけじゃないぞ、グローブは視界からまぶしい太陽光線を遮る役目もあることを忘れてはならん」

高野さんは人一倍の負けず嫌いであるが、人一倍のどんくさい人物だ。打つのも走るのも捕るのもへたくそだが、理論と知識だけは誰よりも詳しい。高野さんは大学とアナウンサーの養成学校とダブルスクールしていた。俺たちは高野さんが局アナになるなんて不可能なことだと思い込んでいた。それは高野さんがとても強い天然パーマだったことから、モザイクなしには放送できないという藤田さんの論を支持していたからだ。ところが高野さんはフジテレビ系列の岡山放送のアナウンサーに採用されたのだから驚いた。現在は局アナは辞めたそうだがスポーツ中継を中心にフリーアナウンサーとして活躍しているようだ。

若狭さんとは野球同好会から姿を晦まし、3回も一緒にバックパッカーの旅に出る仲だった。香港、マレーシア、シンガポール、タイ、インド、パキスタン、ネパール、トルコ、ブルガリア、ロシア、モロッコ、マリ、シリアなどロンリープラネットという情報本を手に渡り歩いた。まだ猿岩石が〝進め電波少年″という番組でバックパッカーの旅をする前のことだ。俺も若狭さんも沢木耕太郎の「深夜特急」を読んで感化されていたのかもしれない。旅先で喧嘩して別行動したこともあったが帰りは結局一緒に帰国した。タイでは睡眠薬強盗に遭って二人で一文無しになったこともある。その時は東京銀行バンコク支店の支店長さんが日本への国際電話を提供してくれた。俺と若狭さんはそれぞれ日本の実家に電話で送金を頼むことが出来た。支店長さんは即席でパスポート番号を口座番号に見立てて俺たちへの送金を受け取れるように融通してくれた。今でも感謝している。

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