2025/06/03
4月、トランプ大統領が導入した「相互関税」政策は、世界経済に大きな波紋を広げている。この政策は、すべての輸入品に一律10%の関税を課し、日本には24%、中国には104%(後に125%に引き上げ)など、貿易相手国ごとに異なる高関税を上乗せするものだ。これにより、国際貿易秩序は第二次世界大戦後最大の転換点を迎え、報復関税や経済的混乱が各国で懸念されている。なぜトランプ大統領はここまで関税にこだわるのか。その背景と理由を、経済的・政治的・外交的観点から簡単に整理してみたい。
関税政策の核心 貿易赤字の削減と国内産業の保護
トランプ大統領が関税を重視する最大の理由は、アメリカの巨額な貿易赤字の是正と国内製造業の復活にある。アメリカの貿易赤字は巨額に膨れ上がり、特に中国や日本、EUとの間で大きな不均衡が生じている。トランプ氏は、これを「アメリカが他国に食い物にされている」状態と捉え、関税を課すことで輸入品の価格を上げ、国内生産を競争力のあるものにしようとしている。理論的には、輸入品が高価格になれば、企業はアメリカ国内での生産を増やし、雇用創出や経済成長につながると考えられている。
例えば、日本からの自動車輸出はアメリカへの輸出総額の約3割を占めるが、24%の関税により価格競争力が低下する。これにより、アメリカ国内での自動車生産が増え、製造業の雇用が回復する可能性がある
外交ツールとしての関税:交渉の「武器」
トランプ関税のもう一つの特徴は、貿易政策を超えた外交ツールとしての活用だ。関税は単なる経済政策ではなく、相手国に政策変更を迫る「強制の武器」として機能している。例えば、フェンタニルなど違法薬物の流入阻止や不法移民対策を理由に、メキシコやカナダ、中国に対して関税をちらつかせ、譲歩を引き出そうとしている。このアプローチは、トランプ氏が「ディール(取引)の達人」として自負する交渉スタイルを反映している。
実際に、2025年4月に発動した相互関税は、報復措置を取らない国に対して90日間の猶予を与えるなど、交渉の余地を残している。日本とは石破首相とトランプ氏の電話会談後、閣僚レベルでの協議が始まり、関税率の引き下げや適用除外を目指す動きが見られる。このように、関税は相手国との交渉を有利に進めるための圧力手段として、トランプ政権の外交戦略の中核を担っている。
政治的パフォーマンスと支持基盤へのアピール
トランプ氏の関税政策は、経済的合理性だけでなく、国内の政治的アピールも強く意識されている。彼の支持基盤であるブルーカラー層や保守派は、グローバル化による製造業の衰退や雇用の海外流出に不満を抱いている。関税は「アメリカ・ファースト」を体現する政策として、こうした有権者に直接訴えかける。2024年の大統領選で掲げた公約の一つが、関税によるアメリカの再強化であり、選挙戦での強いメッセージが政策に反映されている。ただし、関税による物価上昇がアメリカ市民の生活を圧迫し、支持率が低下する兆しも見られるため、政策の一貫性や調整が今後の焦点となる。
トランプ関税の今後の展望
トランプ関税の背景には、貿易赤字削減、国内産業保護、外交的圧力、そして政治的アピールという多層的な狙いがある。しかし、関税戦争の激化や金融市場の混乱を受け、トランプ氏は一部関税の90日間停止を発表するなど、柔軟な対応も見せている。今後は、日本を含む同盟国との交渉や、品目別関税(半導体や医薬品など)の拡大が焦点となるだろう。
日本としては、閣僚間協議を通じて関税の軽減を目指しつつ、EUや東南アジアとの連携を強化し、自由貿易体制の維持に努める必要がある。トランプ関税は世界経済の不確実性を高めるが、その真意を理解し、戦略的な対応を講じることが求められている。
中国が日本産水産物輸入を一部再開:その政治的狙い
5月30日、日本政府は中国との間で、日本産水産物の輸入再開に関する技術的な要件で合意に達したと発表した。この合意は、2023年8月に東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出開始に伴い、中国が日本産水産物の輸入を全面停止して以来、約2年ぶりの進展となる。今後、輸出関連施設の再登録手続きが完了次第、日本産水産物の対中輸出が再開される見通しだ。この動きは、単なる経済的合理性を超えた中国の政治的戦略の一環として注目される。なぜこのタイミングで中国は輸入再開に踏み切ったのか。その背景には、国際政治の力学、特にトランプ政権の保護主義的姿勢と日米関係への影響を巧みに利用する狙いがある。
トランプ政権の保護主義と日米関係への影響
トランプ米大統領の再選後、米国は再び保護主義的な経済政策を加速させている。トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、諸外国に対する高関税政策、いわゆる「トランプ関税」を推進。これにより、欧州やアジアの同盟国を含む多くの国が経済的混乱に直面している。特に日本に対しては、自動車や工業製品に対する関税引き上げや、相互関税の導入をちらつかせ、日米間の経済的緊張が高まっている。トランプ氏は、日本の対米貿易黒字を問題視し、さらなる譲歩を求める姿勢を明確にしており、日米関係の経済的基盤に揺らぎが生じつつある。
こうした状況は、中国にとって対日接近の好機を提供する。中国は、米国との対立が続く中、日米同盟の結束を弱体化させることで、対中国抑止の枠組みを揺さぶりたいと考えている。日本産水産物の輸入再開は、経済的な恩恵を日本に与えることで、両国間の関係改善を演出し、日本を米国から引き離す一歩となり得る。中国はこれまでも、経済的インセンティブを外交カードとして活用してきた歴史があり、今回の動きもその延長線上にある。
中国の狙い 日米分断と地域的影響力の拡大
中国の狙いは、日米による対中抑止の枠組みを脆弱化させることにある。日米同盟は、アジア太平洋地域における中国の影響力拡大を牽制する要として機能してきた。しかし、トランプ政権の保護主義的圧力が日本に及ぶ中、中国は日本との関係強化を通じて、この同盟に亀裂を生じさせようとしている。輸入再開は、日本にとって経済的メリットが大きく、特に水産業界や地方経済への恩恵が期待される。これにより、一部で対中関係改善を求める声が高まることも考えられよう。
さらに、中国は東アジアにおける地域的影響力の拡大も視野に入れている。日本産水産物の輸入再開は、ASEAN諸国や韓国など、他のアジア諸国に対するメッセージにもなる。中国が日本との経済協力を深める姿勢を示すことで、地域内の対中包囲網を緩和し、経済的結びつきを強化する狙いがある。これは、米国が推進するインド太平洋戦略への対抗策としても機能する。
日本側の対応と今後の展望
日本政府は、今回の合意を経済外交の成果として歓迎する一方で、中国の政治的意図を慎重に見極める必要がある。輸入再開は日本の水産業界にとって朗報だが、過度な対中依存は、将来的な外交リスクを伴う。
繰り返しになるが、中国が日本産水産物の輸入を一部再開する背景には、トランプ政権の保護主義による日米間の亀裂を突き、日米同盟の結束を弱体化させる戦略がある。経済的インセンティブを通じて日本に接近し、地域での影響力を拡大する狙いは、中国の長期的な地政学的目標と一致する。日本としては、経済的利益を確保しつつ、中国の意図を冷静に分析していく必要がある。
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