2025/05/17
なにがあったか?不気味極まる金正恩総書記、ロシア対独戦勝80年記念日の不在
(写真 対独戦勝80年記念日の様子 Wikipediaより)
5月9日、中国の習近平国家主席は旧ソ連の「対独戦勝80年記念日」に合わせて、主賓としてロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行った。両首脳の対面会談は第2次トランプ米政権発足後初めてのことだ。返礼としてプーチン氏は、9月に中国で開催される「抗日戦争勝利記念日」の式典への出席を約束した。一方、習氏はトランプ政権を批判し、プーチン氏も「一国主義と制裁の乱用に共に反対していく」と応じ、反米で中国と足並みを揃える姿勢を明確にした。中露両首脳は強固な関係と反米連携での結束を誇示したが、内実は微妙なものがある。また当初、予想された超反米派の北朝鮮・金正恩総書記の訪ロはなかった。その理由は空路を利用すれば、いまやウクライナの交戦国である北朝鮮のトップであるためドローンに命を狙われること。ウラジオストックからモスクワまで通じるシベリア鉄道を使えば6泊7日はかかる。10日ほど祖国を空けることになり、クーデターなどの懸念があること。そして最大の理由は後述する。
ロシアはウクライナとの戦いで不足する弾薬や兵士の確保を北朝鮮に頼っており、北朝鮮も見返りとしてロシアからの軍事技術の提供を望み、急速に両国の関係強化が進んでいる。だが長年北朝鮮の後ろ盾を自認してきた中国は、ロ朝接近に不快感を抱いている。さらに新たな天然ガスパイプライン「シベリアの力2」の建設に関しても、中ロの協議は難航しているもようだ。 中ロの関係は決して一枚岩ではない。
さて正恩氏が「対独戦勝記念日」にモスクワを訪問しなかった最大の理由は、第2次世界大戦の戦勝80周年を慶祝すると国家の正統性を損ねるからだ。北朝鮮憲法序文には、朝鮮半島の解放は、日本が米国など連合国に敗れた結果ではなく、正恩氏の祖父である金日成氏率いる抗日パルチザンが日本軍を駆逐した成果だと記されている。曰く≪金日成同志は抗日革命闘争を組織・指導して祖国解放を成し遂げ、朝鮮民主主義人民共和国を創建した≫とある。金日成氏は、ソ連の朝鮮人パルチザンである「極東軍第88独立狙撃旅団」の第1大隊長を務めるが、対日戦に参加することなく終戦を迎えている。33歳になった同氏は、1945年9月にソ連の占領政策を補佐する政治工作員としてソ連軍大尉の軍服を着て日本軍のいなくなった朝鮮半島に帰還した。つまり金日成氏は中国軍とソ連軍の一員として活動していただけで、対日戦といえるものは、北朝鮮正史で、「普天堡の戦い」(旧満州)と大げさに伝えられているが、駐在所を襲撃して2人を殺害したにすぎない。金日成氏の同志(その後毛沢東軍に合流)も「日本軍に1度も勝ったことがない」と証言している。金日成氏は、駐在所の襲撃後は、日本軍の掃討作戦を受けてソ連に逃げ帰っている。もし正恩氏がモスクワを訪問した場合、ロシアのメディアは、来賓の経歴を大々的に報じるだろう。その流れで、「現在の北朝鮮は、金日成氏を傀儡としてソ連が建国した」と説明されれば、北朝鮮の正当性は瓦解してしまう。
ロシアに赴かなかった正恩氏は 5月9日在北朝鮮ロシア大使館を娘のジュエ氏とともに訪問し「記念日」を慶賀した。だが、ソ連による日ソ不可侵条約を破っての対日参戦やソ連による祖国解放への感謝には一切触れていない。先頃北朝鮮を訪れたロシアのショイグ安全保障会議書記は、正恩氏のロシア訪問を要請している。タイミングとしては、来月のプーチン大統領による平壌訪問1周年への返礼や、6月25日の朝鮮戦争開戦75周年、9月のウラジオストクでの東方経済フォーラムなどが挙げられるだろう。
ロシア軍と朝鮮人民軍(北朝鮮軍)による本格的なウクライナ本土進攻作戦が動き出し、朝ロ双方の利害が一致すれば、特定の記念日を介さずとも首脳会談が実施される可能性は十分にある。
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