政治•経済 「アベノミクス」を総括できない 石破政権の錯誤と展望なき施策 政権交代もなく「脱安倍」も進められない日本の暗澹④ 高野 孟 ●ジャーナリスト
「アベノミクス」を総括できない 石破政権の錯誤と展望なき施策 政権交代もなく「脱安倍」も進められない日本の暗澹④ 高野 孟 ●ジャーナリスト
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2025/01/10

「アジア版NATO構想」と核共有

 3本柱の第3は、外交・安保政策に関わる分野である。この面での安倍政治の最大の遺産は、2015年の集団的自衛権の解禁を盛り込んだ新「安保法制」である。これは原理的に言うと、米国が自分の勝手な都合で戦争を始めたという場合でも、同盟国=日本はそれを我が事と受け止めて米軍と肩を並べて戦うことを義務化するということで、それを担いうる自衛隊とするための大軍拡路線も採用された。野党連合としてはこれに歯止めをかけようとするのは当然だが、石破であっても、防衛族の大物で軍事オタクとも言われるほどの専門知識も蓄えているはずで、それなりに合理的な再検討に着手するのではないかと期待された。しかしその気配はなく、彼が持ち出したのは「アジア版NATO構想」と「核共有」だけだった。

 「核共有」は、ドイツなどNATO内の非核保有5カ国がすでに導入しているもので、米国の戦術核を各国領内に予め配備しておき、有事の際にそれを使用することになった場合は米国の指示と承認の下、各国の空軍機がそれを搭載して核攻撃任務に就くという制度。賛成論の立場からは、これによって米国の「核の傘」の信頼性が増し、敵に対する抑止力が強化されると主張されるが、欧州にも根強い反対論の立場からは、1950年代に米ソの核戦争危機が切迫していると考えられた頃の時代遅れの考え方で、核軍縮努力の一環として廃止すべきと主張されている。安倍が晩年にこれを検討すべきだと言ったのに対し、防衛研究所の新垣拓主任研究官は「NATO の抑止・防衛政策に沿ってテイラーメイドされた制度で……地政学的な条件や歴史的文脈が異なる別の地域にそのままのかたちで援用することは難しい」と結論付けている(同研究所コメンタリー第211号)。いずれにせよこの部分は、石破の安倍追随でしかない。

 アジア版NATO構想は、安倍の「QUAD(米日豪印4カ国)」軍事同盟論をさらに膨らませたもので、要するに主として中国の台湾侵攻を念頭に置いてQUADだけでなく東南アジア諸国も結集して「米英同盟並みに強化された日米同盟」を中核とした壮大な軍事同盟を築こうという考え方である。これは1950〜60年代前半頃に米国の軍幹部やシンクタンクの学者などから盛んに提唱された「PATO(太平洋アジア条約機構)」構想の焼き直しで、当時すでに米国自身の中から「多様な利害と発展段階の国々を1つにまとめて米国が率いるなど到底無理」という判断があり、「アジアは欧州とは違って、米韓、米日、米比、米豪NZなど個別条約の束で守るのが合理的」と結論が出た話で、なぜ石破がこんな古色蒼然たる冷戦時代の遺物を今頃弄ぼうとするのかはほとんど謎である。実際、この考え方が9月27日に米ハドソン研究所のサイトに発表されるとすぐにインドのジャインシャンカル外相が「インドは日本とは異なり、他国と条約による同盟関係を結んだことがなく、そのような戦略的な枠組みは考えていない」と明言した。あるいは、シンガポールのシンクタンクISEASが今年4月に発表したASEAN10ヵ国の識者を対象とした調査では、ASEANが中国か米国のどちらかと同盟を結ぶことを余儀なくされた場合、「中国を選ぶ」とした人が50・5%で、昨年の38・9%から大幅に増えて初めて5割を超えた。石破は軍事オタクかもしれないが外交オンチで、このようなアジアの国々の心情などさっぱり理解できていないことが分かる。こうして、この得意とされる分野でも、石破は安倍政治の弊害を乗り越えていくだけの知力・見識に欠けていることを早くも証明してしまった。

 すでに気の早い週刊誌は、「石破では来夏参院選は戦えない」という声が党内に充満し年内か年明けにも政変が起きると予測するが、その時にも我々は「ならば誰が『脱安倍化』を完遂できるのか」という座標軸で事態を見ていく必要がある。

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