政治•経済 「アベノミクス」を総括できない 石破政権の錯誤と展望なき施策 政権交代もなく「脱安倍」も進められない日本の暗澹③ 高野 孟 ●ジャーナリスト
「アベノミクス」を総括できない 石破政権の錯誤と展望なき施策 政権交代もなく「脱安倍」も進められない日本の暗澹③ 高野 孟 ●ジャーナリスト
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2025/01/09

デフレ脱却とアベノミクスの誤謬

 3本柱の第2は、「アベノミクス」の徹底総括である。私は自慢するわけではないが、アベノミクスの一番初期からの批判者の1人で、2012年秋の総選挙で安倍がそれを言い出した時から「何それ? おかしいんじゃないの」と言い続けてきた。

 第1に、当時の日本経済の状況を「デフレ」と捉え、そこからの「脱却」が中心課題だとした認識自体がとんでもない大間違いだった。
モノやサービスの供給が増大しているのに対して需要が減少し、その結果としてモノやサービスの価格が継続的に下落することを「デフレ」と言う。モノやサービスの値段が下がるとそれらを供給している企業の業績が悪化し、従業員の賃金が下がり、そうすると彼らが行う消費が減り、さらに物価が下落するという錐揉み状態に突入しかねないというのが「デフレスパイラル」論。あの当時は、「不況」のことを「デフレ」と言う人がおり、その「デフレ」を「デフレスパイラル」の恐怖に直結して語る人もいたりして、用語の定義不明のまま飛び交った。ところが日本経済は本当のところ、世界のどこよりも急速に「人口減少社会」に突入しつつあるために歴史的・構造的な需要減を覚悟しなければならないところに差し掛かっていたのであり、それを安倍はデフレというモノとカネのバランス問題と錯覚したのである。

 第2に、当時の課題を「デフレ脱却」とすること自体が誤っていたけれども、そこから脱却するための手段として「異次元金融緩和」と称し、日銀が際限もなく国債や株式(ETF)を購入することで世の中にマネーを溢れ返らせれば経済が回り始めるだろうという設定がなおさら間違っていた。アベノミクスが始動した2913年3月に135兆円だったマネタリーベース(世の中に出回っている現金と全銀行が日銀構内に置いている「日銀当座預金」残高の合計)は、2024年9月現在、687兆円に達している。日銀は印刷局が刷り増したお札を空から撒くわけにもいかないので、各銀行が保有する国債を買い上げ、その代金をその銀行の日銀当座預金口座に振り込む。そうすると、各銀行はそこから現金を引き出して融資や投資に回し始めるだろうと想定されていたのだが、そうはならなかった。13年3月に47兆円だった各銀行の日銀当座預金の残高合計は24年3月で561億円で、まあ荒っぽく言えば、日銀が買った国債の代金のほとんどは日銀の構内に滞留して世の中に出回ることはなく、日銀構内で自家中毒を起こしていた。アベノミクスの失敗の核心は、まさにここに存する。

 そのことを徹底総括してアベノミクスの害毒を一掃しなければならないというのに、石破は総裁選直後から突如「デフレ脱却」と言い始めた。朝日新聞の原真人編集委員が10月19日付「多事奏論」で解説したところによると、総裁選の1回目投票で高市が1位になると円安ドル高が進み、決選投票で石破が逆転すると円高ドル安に転じ、週明け30日の平均株価は一時2000円超も下げて「石破ショック」と言われた。この市場の「高市は買い、石破は売り」という反応を見て、石破は慌てて節を曲げてアベノミクス追随の姿勢を示そうとしたのだという。ここでも石破の安直なコロコロぶりが露呈したわけである。さらに原は述べている。「デフレは物価下落が続くことで、そこから脱却するとは物価を上げることだ。この物価高の下でさらに物価をあげようとはかなり倒錯した問題意識である。……石破がこれを持ち出したのはやや意外だった。石破は7年前、日本記者クラブでの講演でアベノミクスや異次元金融緩和を批判していたからだ。『こんな政策をいつまでもできるわけがない』『おかしくないかと誰も言わない自民党は怖い。大東亜戦争の時がそうだった』とも」こうして石破は、彼ならばアベノミクスの出鱈目からキッパリと卒業させてくれるのではないかという期待を早々に裏切ったのだった。そうなると、本来なら野党が進み出て、「石破さんでもアベノミクス清算は無理でしたね。では我々が引き受けましょう」と根源的な批判を繰り出すべきところだが、総選挙を通じてそのような言論を聞くことはなかった。

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