連載•小説
人気パビリオンを見たい!と万博に行く者は、みな声をあげる。だが、実際は予約抽選で 当たるか、途方もない列に並ぶしかない。前者は運試し、後者は腕試し。つまり、体力勝 負である。 しかも、この猛暑の中、1、2時間は序の口。3時間以上は立ちっぱなし。 おいおい『国宝』一本観終るぞ! 7時間以上の人もいるようだ。 おいおい『地面師』全話観終るぞ! みな、並ぶのを屁とも思ってない笑みを浮かべている。中には、並びながら笑って屁をこ いてる奴もいるはずだ。 このハレの場における異様なパワーは、人間の遺伝子に元々組み込まれているのか? そう思ったが、俺と母には全くなく、少しでも早く入れるパビリオンを回って行った。 そんな二回目の万博だが、実は今回、夜からの枠で『関西パビリオン』に当選していた。 もちろん、最初は嬉しかったのだが、猛暑でバテバテの母は、 「なんで夜まで待たなあかんねん!帰りたい!」 と、当たったことを呪いはじめていた。 (つづく)
2025.09.28
藤原さんとは春待ち疲れバンド以外の店にも時々出演した。ライブでは藤原さんがいつも 酔っぱらっているのでグダグダになる。よくしゃべる藤原さんの話でウケているのは俺だ けだ。客のまばらな客席はすっかり冷え切っている。ステージを見る少数派の客も愛想笑 いが苦笑いに変わってしまっている。ただ、俺たちはそんなことはまったく気にしない。 俺たちのファンなんていないし、どうせたまたまその店で居合わせただけなのだから。 「藤原さん、何飲んでんすか」 「何よ、勘違いにしないでよ、ビールなわけないでしょ、グラスに入っているのは無色透 明なんだから」 「余計に怪しいっす」 「俺を疑ってるの?だったら一口飲んでみろよ」 「うわっ、これ日本酒ですやん」 「そうだよ、無色透明の日本酒ですよ」 「良いんすか、ステージ中に」 「良いわけないけど君がばらしてくれたから今からは良くなった」 「良くなるわけないでしょ」 「だって、もう隠す必要がなくなったんだもん、さかもっちゃん、テンキュ」 てな感じである。藤原さんは俺がメインで歌う曲を演奏中にトイレに吐きに行ってしまっ たことすらあった。 「藤原さん、吐きに行ってたんでしょ。酷いじゃないっすか、焦りましたよ」 「緊急事態でトイレに行っただけやよ、知ってるだろ、道路交通法でも5分以内の放置は 認められているんだから」 「それはドライブの時の話。今はドライブ中じゃなくてライブ中ですから。ダメっすよ」 「トイレぐらいええやろ」 「どうせ上から出したんでしょ」 「上からだけやなくて下からもよ」 「えげつな」 「そんなこと言うけど、歌いながら吐くよりええやろ、そないなことになったらお客さん がえらいこっちゃになるやんか」 「そりゃそうやけど」 「緊急事態にステージでは吐かずにトイレに駆け込んだんやから俺ってすごいお客さん想 いやん。お客さんをまずは守ることを優先したんやから、褒められることはあっても叱ら れることはありえへんやろ」 「まあねぇ~って、そんなわけあるか!飲みすぎなんや!」 「さて、次の曲を聴いてください、〝ラブフォーエバー″」 という具合だ。ゲロの話の後に何食わぬ顔をしてラブソングを歌ってしまうデリカシーの なさである。(つづく、坂本雅彦)
2025.09.28
今季、強すぎる阪神が勝ち星を積み重ねるごとにSNSには「セ・リーグは終了です」などといった嘆息があふれることもしばしばあったように、ファンにしてみれば、ほかの5球団にはペナント争いをもっと盛り上げて欲しかった。 このような状況に佐野氏は「今シーズン、下位に低迷しているチームは大きな改革が必要な時じゃないかなと思います」とズバリ。 「例えば、生きのいい若手を起用し、チームを育てながら戦っていれば『今年は我慢の年』ということも言えたんですが、どのチームもそういう感じがしない。ゆいいつ、中日が頑張っているかなというぐらい。ヤクルトは村上のメジャー挑戦も有力視されていますしね」 Bクラスに甘んじることなく、ファンが期待できるチーム編成を望みたい。
2025.09.28
阪神独走Vで決まったセ・リーグ。焦点をCSに向けて各チーム陣容を整え始めた。 昨季はDeNAがセ3位からCSを勝ち上がり、日本シリーズ制覇というミラクルを達成。今季、阪神はCSでDeNA、巨人のどちらかを迎え撃つ。 そんな中で佐野氏は「いまならジャイアンツが怖い」と言う。阪神とすれば、勢いの出てきたDeNAが怖いようにも思えるが「つなぐ意識の強いのはジャイアンツ。機動力を使えるのはDeNAよりやっぱりジャイアンツかなと。打線は中山やリチャードが元気が出てきていますしね。いい感じで状態上がってきている。坂本もいい」とした。 最後には「ポイントは戸郷の調子。自分の思い通りの球が投げれてない時はピッチャーってフラストレーションたまるんですよ」とエースの復調をあげた。
2025.09.26
去る9月13日の土曜日、やっと入手できたプロ野球阪神巨人戦のチケットを握りしめ東 京ドームでのデイゲームを観戦した。7月には購入済みのチケットであったが、阪神ファ ンの私の予想ではちょうど阪神の優勝が決まる頃だと思い楽しみにしていたのだが、残念 ながら?嬉しいような悲しいような?既に9月7日に阪神タイガースの優勝が決定してしま っていた。とほほ、プレミアチケットになると思っていたが単なる消化試合を見る羽目と なった。 周囲は熱烈な阪神ファンに囲まれた三塁側レフト上段席に陣取った。試合は両軍ともに 二桁安打の乱打戦。巨人に点が入るたびに「かめへん、かめはん、俺らはもう優勝しとる しな」という阪神ファン。阪神に点が入るたびに「CSに向けたバッティング練習やさかい 」と余裕の応援。 取って取られてのシーソーゲームを制したのは巨人。9回の裏、1アウト2、3塁で代打 に登場したのはベテラン坂本勇人。3ボール2ストライクから坂本が放った打球はセンター へのライナー性のタイムリーヒット。土壇場で巨人が逆転サヨナラ勝ち。相撲でいえば“う っちゃり”のようなもの。11対10で両軍合わせて26安打の乱打戦を巨人が制した。 シーソーゲームが面白いのは当然であるが、何より爽快であったのは両軍の坂本選手の 大活躍。何を隠そう、私も「坂本」である。阪神の正捕手は坂本誠士郎、この日の坂本誠 士郎は4打数2安打1四球1打点の活躍。ヒットを打つたびに満員のドームに坂本コールが沸 き起こる。私も人知れず痛快な思いを抱く。それにも増して9回裏の1打逆転サヨナラの場 面で坂本勇人が代打で登場。4万人の期待を一身に受けた坂本勇人がタイムリーを放った 際には球場全体が揺れるほどの歓喜に包まれる。「単なる坂本」である私も全身に「いい ぞ、いいぞ、坂本!」コールを浴びつつ勝利の余韻に酔いしれる。阪神タイガースの優勝 は既に確定しているのだからこの日は両軍の「坂本」を密かに応援しちゃっても良いはず だ。両坂本の大活躍のお陰で「単なる坂本」である私も勝手にヒーロー気分を味わうこと が出来た。消化試合とはいえ、私にとっては付加価値の付いたプレミアチケットとなった 奇跡に感謝したい。(坂本雅彦)
2025.09.26
蔦重は1786(天明6)年の『絵本江戸爵』を端緒に、歌麿の挿絵を盛り込んだ狂歌絵本を続々とリリースしていく。翌1787(天明7)年から後は、蔦重は北尾重政に代わって歌麿を多色摺りの挿絵の中心に据えている。 貝の超細密画がずらり並んだ『潮干のつと』はその1作目。36人の狂歌師が詠んだそれぞれの貝に絡めた狂歌が、おのおのの貝の挿絵に添えてある。無論、三十六歌仙のパロディである。 歌麿の絵の魅力が本格的に世に知られたのは、1788(天明8)年正月にリリースされた『画本虫撰(がほんむしえらび)』だろう。大河『べらぼう』劇中で「生きてるみてえだ」と蔦重が驚嘆した、トンボや蝶などの昆虫や植物の超細密画が添えられた豪華本。前年から質素倹約を掲げて始まった寛政の改革とは、方向性が真逆だったのは確かだ。 狂歌は前年夏に隅田川の川べりで開かれた狂歌会で詠まれたものを載せている(虫に引っかけたギャクネタ、エロネタ多数)。 歌麿はその後も1790(寛政2)年までに14もの狂歌絵本に、170以上の挿絵を描いた。これだけ継続したことじたいが、そのまま歌麿の挿絵に対する世間の評価と見てよかろう。(つづく)
2025.09.25
まだ昼間なのに俺と母は、ベンチでバテていた。唯一、予約抽選が当たった『関西パ ビリオン』の入場時間は18時以降の為、それまで他のパビリオンを見たかったのだ が、この猛暑で、身につけていた電池式の冷感グッズの効き目は午前中にあっさり切 れてしまった。 「怖い噺をしてゾクゾクする霊感グッズはないものか?」 と俺が呟くと、母は、 「ゲゲゲの鬼太郎館みたいな場所か」 と言う。ふざけている訳ではなく、昔、宝塚ファミリーランドに毎年夏だけ『妖怪お 化け屋敷』があった。そういえば今回の万博は、著名人のプロデュース館はいくつか あるが、日本の妖怪をテーマにしたものはない。京極夏彦が担当したらさぞかし面白 そうだが、母の頭の中では、 「稲川淳二か?」 となっていた。それはそれで怖そうである。しかし、 「一番の妖怪はミャクミャクや」 「確かに。ミャクミャク見てたら涼しい気が・・・いや、全然涼しないわ!」 と、ようやくベンチから腰を上げた。
2025.09.24
オリックスがソフトバンクの〝思わぬ誤算〟として躍動している。前カード終了までソフトバンクの8連勝中だったが、先週20日からスタートした4連戦ではカード頭から連勝を重ね、V目前のソフトバンクナインにいやなイメージを植え付けた。 シーズン最終盤に調子を上げてきたチームに佐野氏は「不思議なチーム。成績的の面で、チームを引っ張るような選手がいないが、全体のまとまりがいい。総合力で勝っているということ」と分析。 実はソフトバンク以外のチームには五分以上の戦いを繰り広げていて、交流戦もしっかり勝ち越している。 最後は「ソフトバンクの優位は変わらないですが、CSで台風の目になるかもしれませんね。要注目です」とまとめた。
2025.09.24
喜多川歌麿が狂歌界の大物・大田南畝と宴席をともにしたのは、打ちこわしで世間が騒然とし始めた1782(天明2)年の秋。忍が岡――現在の台東区上野・不忍池一帯――というから、当時の歌麿本人の自宅近く。その近隣の料亭か何かだったと推測できる。 ここに大田南畝を始め四方赤良、朱楽漢江といった狂歌の大御所、恋川春町や朋誠堂喜三二という耕書堂の戯作2本柱に北尾重政、勝川春章、さらに鳥居清長といった売れっ子の浮世絵師など、蔦重の周囲のオールスターと言っていい面々が集まっている。 もちろん、無名のルーキー絵師が声がけできるはずもなく、秘蔵っ子の歌麿を売り出すために蔦重が一切を仕切ったことは間違いないだろう。 南畝の判取帳にはさんであって今に残る版画のチラシには、正面を向いて膝を立てて座り、顔を伏せている歌麿の像と、その横にこのオールスターの面々の名を書いた貼り紙を張りまくった屏風が描いてあり、「このたび画工の歌麿と申す者。天明2年秋、忍が岡にて会合を開いたとき、戯作者ほか皆様の縁を仲良く取り持った歌麿大明神です」云々とおどけた口上が添えてある。 チラシは宴会から少し日が経ったあたりで摺られて出席者たちに配られたものであろう。ルーキーながら強い自負心も感じられる。蔦重は歌麿を、この先輩戯作者たちの作品に添える挿絵で売り出してゆく。(つづく)
2025.09.24
イルボネソワッソヨと言っても不審顔ピョンヤンの子どもの知らない語彙か イルボネソワッソヨ=日本から来ました 「チャイニーズ!」大声で叫び走り去る 好奇と羞恥ピョンヤンの少年 地下鉄は撮らないでくれと一言いい後は黙認ガイドのキムさん そこここに焦げ茶の軍服あふれいて道路やビルにツルハシ振るう インラインスケートの音があふれかえる 少年たちの金日成広場 1970年3月。過激派セクト赤軍派の9人の学生が日航機「よど号」をハイジャックしてピョンヤンに入国した。その彼らの手記を出版する企画が実現し、2012年に訪朝して、かの地に暮らす6人の本を作った(『「拉致疑惑」と帰国……ハイジャックから祖国へ』河出書房新社)。それから何回か、ピョンヤンを訪れる機会を得た。街やレストランで意外だったのは、欧米人がやたらに目に付くことだった。 ある時、前からきた少年がすれ違いざまに僕らに向かって「チャイニーズ!」と大声をあげ、次の瞬間、脱兎のごとく走り去った。外国人との接触は禁止されていると聞いていたが、少年の抑えきれない好奇心はどこも同じなのだと実感した。
2025.09.22








