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大好評連載 椎野礼仁の『TANKA de 爺さん』   第5回
大好評連載 椎野礼仁の『TANKA de 爺さん』   第5回

  母 その1                                                                            ガサ入れ 「警察はあなたの部屋しか見ないから移しといたよあぶないものは」   留置場                                                                                     「あなたの好きなお肉を焼いておくからね まっすぐ帰って来て頂戴」 タクシーは遠いところで降りたっけ 留置所帰りの俺と母親    先週の文末に、「学生運動用語だけど、説明しなきゃわからないような作品は所詮そこまでの歌」という趣旨の文章を書いたら、若い友人(といっても40代)から「解説をぜひ」と言われてしまった。もとより格下の格下(どこかの大臣か?)の詠み手なのだから、ここは説明を付すことにした。  歌の前にある 「ガサ入れ」は「詞書(ことばがき)」と言って、歌の背景や内容の説明だ。  「ガサ入れ」は、警察が行う家宅捜査のこと。裁判所の令状に基づくので、「椎野礼仁の部屋」と特定してあると、律義に(?)僕の部屋しか見ないらしい。ので、母親がそのことを学習して、こういう発言があったので、そのまま歌にした。  (※来週に続く)

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2025.04.28

好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑧ 『電子書籍は羊を数える前に夢を見るか』
好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑧ 『電子書籍は羊を数える前に夢を見るか』

『電子書籍は羊を数える前に夢を見るか』  電子書籍を初めて知った時、これで本を持ち運ばずにすむから荷物が軽くなる!と俺は大喜びして電車に乗った。だが、いざ読み始めると、いつもスマホを見ている状態と変わらずがっかりした。重さや質感などの違いは勿論だが、最大の違いは・・・読書のムードがない! 試しに太宰治を読んでみたら、人生に弱音を吐く知らないおっさんのブログに見えてしまった。  一体、電子のメリットは?と考えたら、一点あった・・・暗闇でも読める!早速その夜、俺は寝床で実行することにした。ネットを見ていたら『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のサンプルがあったので俺は暗闇のなか読み始めた。予想以上にいい!ぼんやり光る画面は作品に没入できてムード満載である。これからは夜は電子だ!そう思ったら、いつの間にか寝落ちしていた。本は明るい所で読むべきだ。まだ紙の方が俺にはよい。  最終的には『電子書籍は羊を数える前に夢を見る』になってしまったのだった。

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2025.04.25

幕府の中枢と江戸の市井を行き来した天才・平賀源内
幕府の中枢と江戸の市井を行き来した天才・平賀源内

 大河『べらぼう』劇中の平賀源内は、『吉原細見』の序文を書いたという以外に蔦屋重三郎との史実上の接点は見つからないが、蔦重の住む江戸の市井と、田沼意次の住む幕府の中枢という2つの世界を行き来できる特異なポジションにあり、劇中で2つの世界を橋渡しする役割を負っていた。   日本版レオナルド・ダ・ビンチとも称される源内の多才ぶりは、よく知られている。主に薬用となる植物・動物・鉱物の形態や効能を研究する本草学者であり、エレキテル(摩擦起電機)を復元したり、‶燃えない布″火浣布を発明したり、戯作者でもあり今でいうコピーライターでもあり、鉱物資源を掘り当てる山師であった。   1728(享保13)年、讃岐国寒川郡で高松藩の下級武士の三男として生まれた源内は、26歳で高松藩の役職を辞して28歳のとき江戸に上り本草学者・田村元雄に入門。武士の身分は保ちつつも家督は妹婿に譲り、浪人扱いとなって学問や技術分野の研究に専念する。意次とどのタイミングで接触したかは不明だが、その多才さを意次に買われた源内は、幕府の政策に深く関わるようになる。

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2025.04.24

好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑦ 『小躍りをしていた怪しい男』
好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑦ 『小躍りをしていた怪しい男』

『小躍りをしていた怪しい男』  自宅から駅までの道のりが遠回りだったのを知ったのは去年のことである。  俺はある日、駅とは反対側の方へあてもなく歩いていた。単なる散歩であるが、駅の反対側に用事があるということがこの先の人生で限りなくゼロに近いゆえ、あてもなく歩く以外は一生その道を通らないだろう。本当にあてもなかったので、一生入ることのない路地を歩いていた。その時である。駅のない方から電車の音が聞こえて来た。不思議な感覚であった。俺は音のする方へ、その日初めて、あてがあって向かって行った。山田、鈴木、田中などの表札を抜けると、目の前に線路があった。四次元への入口のようであった。  そこから俺は、散歩とは思えぬほどのスピードで線路付近を進んで行った。そして、気付けばワープしたように駅に着いていた。風景はいつもと同じだったが、俺は電車に乗らないのに改札口まで歩いてしまった。  あの日、切符売り場の前で、小躍りをしていた怪しい男は俺である。

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2025.04.22

好評連載 椎野礼仁(しいのれいにん)の『TANKA de 爺さん』     第4回
好評連載 椎野礼仁(しいのれいにん)の『TANKA de 爺さん』     第4回

都立南高校二年 椎野礼仁(ラグビー部)その2   「親戚の東大生に勉強を見てもらってるの」と問わず語りに ポッキーを両の端からかじっていく 唇ちかづく目が閉じられる チャイムまでわずかな時間をむさぼった 純情可憐な高校生は 抱きしめた背中で右手の時計見た わずかな動きのつもりだった 少女というこわれやすさを知りもせで十七の春 取り戻せない あの日にはすれ違う人がことごとく君に見えた 涙の目には 「逮捕されたんだって」と電話口「学生運動も悪くはないけど・・・」 東大の民青キャップのケンチャンと一緒になったとうわさに聞いた    60年前の高校生や学生運動のことがわからないと、最後の2首は歌意がつかめないかもしれないと思いつつ、あえて書きっぱなしにします。説明がないとわからない歌なんて、しょせん駄作ですね。

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2025.04.21

好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑥ 『暑かったり寒かったり』
好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑥ 『暑かったり寒かったり』

 暑かったり寒かったり、もう無茶苦茶である。なんの話をしているのかというと、最近の気温である。先日は午前中の寒さにブルブル震え、朝から風呂の湯を溜めて浸かった。  だが、昼前から暑くなって扇風機クルクル。水浴びしたい位である。衣類はヒートテックから急遽、Tシャツに着替える。スポーツ飲料をガブ飲み。夕方になって、またヒートテック。風呂、暖める。冷たい缶ビールをガブ飲み。また暖房。冷たい缶ビールを飲んで身体、また冷える。そのまま朝まで暖房プラス羽毛布団。明け方、暑くなって羽毛布団蹴とばす。大いに蹴とばす。勢いで目が開いて、暖房切る。寝る。2時間後位に起きたら、寒くてたまらない。風呂、暖める。湯上りに麦茶。一日の始まり、体調最悪。四月に革ジャンを着て寄席へ。着物に着替えて舞台へ。高座は暖房が効きすぎている。終演後、楽屋でパンイチ。5分後寒い。  しっちゃかめっちゃかな俺47歳。なんとか今日も生きている。

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2025.04.18

蔦重、須原屋らが自由に書物を出した田沼意次の時代
蔦重、須原屋らが自由に書物を出した田沼意次の時代

 須原屋市兵衛が手掛けた著名な出版物のもう一方『三国通覧図説』は、1785(天明5)年の出版。朝鮮・琉球・蝦夷という日本の近隣の国や島々について、その風俗を挿絵入りで紹介した書物である。 林子平はこの時代の経世論家。1778(安永7)年には幕府の知らぬところでロシアが松前藩に交易を申し入れてきていたが(松前藩は隠蔽)、幕府・人民の海外事情への関心の薄さに危機感を抱き、近隣諸国についての基礎知識に重点を置いた本書は、外圧を見越した先見の書として名高い。 市兵衛は、他にも『万国一器界万量総図』『天球之図』『地球一覧之図』『翻訳万国之図・同説』など地理・地図関連の先進的な出版物を続々と手掛けていった。 江戸期といえば出版物、特に海外の情報を扱ったものに対する規制とペナルティが厳しかったとの印象があるが、市兵衛が活躍したこの時期は規制が比較的緩やかで自由な時代だった。言うまでもなく、黄表紙のヒット連発に続いて江戸の狂歌ブームを大いに煽った蔦重もその恩恵に与った版元の一人だった。 そんな空気を世に広げた為政者が、他ならぬ田沼意次だった。意次の周囲には、直接接点のあった平賀源内、『解体新書』を意次に献上した杉田玄白のほか、後に『海国兵談』を著す林子平、松前藩や長崎の住人からのヒアリングでロシアの脅威を分析した『赤蝦夷風説考』を著した工藤平助、それを元に実際に蝦夷地の調査を行った幕府普請役の最上徳内等々、意次の周囲には、その開明的な気質に相応しい人材がうごめいていたのである。(つづく) 主な参考書籍:鈴木俊幸『絵草子屋 江戸の浮世絵ショップ』平凡社

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2025.04.17

好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑤ 『盗難注意』
好評連載『俺の名前は三遊亭はらしょう』⑤ 『盗難注意』

『盗難注意』  先月、愛知へ行った時のことだ。滞在先はドミトリーの安宿だったのだが、チェックインした途端、「こちらをお使い下さい」とフロントでチェーンを渡された。はて、どこかで見たことがあると思ったら、自転車に使うあれである。聞けば、手荷物を盗まれないようにとのことらしい。俺はセキュリティのしっかりした宿だと感心した。  だが、裏を返せば、それだけ治安が悪いことも意味する。しかも、よく見ると至る所に「盗難注意」の貼り紙が貼られてある。急に不安になってきた俺は、チェーンがここでの守り神になった。そのまま部屋へ移動するのだが、これを無くしてはいけない。俺は思いつきで首に巻いてみた。途端、いきなり悪役レスラーみたいになった!急に強くなった気分である。そう思って、首元のチェーンをジャラジャラさせて廊下を歩いていたら、すれ違った外国人が俺を避けて行った。  もしかしたら、こっちのほうが盗難予防になるのではないかと思った。

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2025.04.15

杉田玄白『解体新書』を出した名門版元・須原屋市兵衛
杉田玄白『解体新書』を出した名門版元・須原屋市兵衛

 もう一人、大河『べらぼう』がその時代を語ってゆく上で欠かせぬ存在となっていく版元が、里見浩太朗演じる須原屋市兵衛であろう。   当時、江戸でナンバーワンの書物問屋が須原屋茂兵衛。後に大躍進した蔦重とともに、川柳で「吉原は重三、茂兵衛は丸の内」と並び称された大書店である。ちなみに丸の内とは、丸の内の大名・旗本を相手に販売する、大名や幕府官僚の氏名・石高・俸給・家紋などを記した年鑑形式の『武鑑』――いわば武士の紳士録――を経営基盤としていたことによる。   この須原屋からのれん分けしたいくつかの分家のうちの1つで、申椒堂(しんしょうどう)という屋号で日本橋室町に店を構えていたのが市兵衛だった。早くから海外の情報に目を向けており、1763(宝暦13)年には”日本のダ・ビンチ”平賀源内に『物類品隲』を書かせたのを始め、源内の周辺の蘭学者たちの著書を多く出版している。   最も知られているのが杉田玄白・前野良沢が上梓した『解体新書』、そして林子平『三国通覧図説』であろう。前者は言うまでもなくオランダ語の医学書『ターヘル・アナトミア』の訳書である。幕府の規制におびえながらも1774(安永3)年に出版にこぎつけた、日本初の本格的な西洋医学書の翻訳本だった。日本の近代科学は本書で始まったとも言われている。(つづく)   主な参考書籍:鈴木俊幸『絵草子屋 江戸の浮世絵ショップ』平凡社  

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2025.04.14

好評連載 椎野礼仁(しいのれいにん)の『TANKA de 爺さん』     第3回
好評連載 椎野礼仁(しいのれいにん)の『TANKA de 爺さん』     第3回

都立南高校二年 椎野礼仁(ラグビー部)   「キスだけで妊娠しないか調べたの」真顔の少女 高二の春の 楕円球追ってグランド駆け回る 視線の端にはバレーコート 「バレー部とラグビー部のキャプテンいいなぁ」と運動部員はみんな知ってた 家へ送るといつも機械の音がしてた「ネジを造って収めているの」 お父さん一人、機械1台、車はバン これが世に言う下請け工場か 共産党候補のポスター貼られてた そこでさよならいつもしていた  もうはるか、本当にはるか昔のことだが、鮮明に記憶に残っている。当時の高校生は純情だった。“初恋以上、恋愛未満”だから、いい思い出としての位相を保っているのだろう。  来週はこの続き、破局の数首を書いてみます。

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2025.04.14

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