2025/01/28
耕書堂の開店から2年経った1774(安永3)年7月、数え25歳の蔦重(蔦屋重三郎)は初めて自ら企画した出版物を世に出す。それが遊女評判記『一目千本』だ。上下2巻、計約70ページある、蔦重の悲願である吉原の客寄せのツールの一つであろう。
一般の書店の店頭には並べず、もっぱら遊女ら吉原遊郭の住人が馴染みの客相手に与える豪華なギフトとしてあつらえたものと言われ、その資金を遊郭内の妓楼主や遊女たちから集めたという。
『一目千本』は遊女たちの姿をそのまま図録としたものではない。。遊女たちを、各々のキャラクターに合わせた花に見立てたのだ。当時江戸で流行していた生け花が何らかのヒントとなったと思われる。
その花の絵を担当したのは北尾重政。北尾派と呼ばれた浮世絵の流派の祖で、蔦重の11歳年上。当時の浮世絵界の重鎮である。20代ルーキーのデビュー作にしては出色の人選だが、これには『べらぼう』のストーリーとは異なり、鱗形屋孫兵衛が重政を紹介したとも言われている。
『べらぼう』劇中では、蔦重の養母である駿河屋の女将がページごとの生け花の絵とそこに添えた遊女の名を見比べて「あの子(蔦重)は、誰よりもこの街を見てんだねえ」としみじみ語るシーンがあったが、それぞれの遊女の見立ては、描いた重政や妓楼の主、遊女本人からのリクエストもありつつ、最終的には蔦重が決めたと思われる。貸本を通じて遊郭の隅々まで知り尽くした蔦重ならではの成果だった。
ゼロから企画し、資金と人材を集めて製作する出版プロデューサー・蔦重の初仕事だった。(つづく)
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