連載•小説 第27回 椎野礼仁のTANKA de 爺さん 『僕を開眼させた短歌』 
第27回 椎野礼仁のTANKA de 爺さん 『僕を開眼させた短歌』 
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2025/10/06

海を買い占めオレンジを買い占めオレンジを海に投げ捨てる老大佐

                                                                                    木下俊介

 

この歌に出会って、僕は短歌をずっとやろうと思った。

父の他界と入れ替わるように、「やどりぎ」という短歌結社に入って歌を作り始めた。時あたかも2000年。50歳だった。十年くらいたって、福島泰樹師の結社「月光」の歌会に出席した。・・・僕が知っていた短歌と全く違う世界がそこにあった。全く歌がわからない。何をどう歌っているのか、さっぱり意味がつかめない。歌評も話していることが理解できない。

「俺ごときの歌詠みが来るところじゃなかった」。そう思った僕は、一年くらいは足を運ばなかったと思う。でも、なんとなく気にはなって、ぽつりぽつりと参加しては、ああ、やはりわからないと、またしばらくは休む。そんな繰り返しだったが、ある会に、上の歌が出詠されていた。

読んだ瞬間、雷に打たれたような衝撃が、僕の体を走った。海を買い占めることができる男、オレンジを買い占めることができる男。その男がしたことは、オレンジを海に投げ込むという児戯。すべての権力を手にしてしまった男の虚無。短歌ってなんと深いんだろう。

と同時に、あれ、俺、今までならこの歌に感応できなかったんじゃないだろうか。そう思うと勇気が出て、月光に毎月通う自分がいた。

この歌の作者は当時25歳。歌会の批評の鋭さには秘かに瞠目していた若者だった。

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