2025/07/29
中国の人民解放軍(PLA)は、世界最大規模の軍事力を誇り、米国との軍事的競争に注力して
きた。しかし、近年、PLAが直面する最大の脅威は、米軍の軍事力ではなく、国内で急速に進行
する少子高齢化である。この人口構造の変化は、軍の人的資源、経済的基盤、さらには外交戦略
に深刻な影響を及ぼし、中国の国力そのものを揺さぶる可能性がある。専門家の中には、今世紀
中に中国の人口が半減するとの予測もあり、PLAにとってこの問題は長期的な戦略の見直しを迫
る危機となっている。
少子高齢化が軍に与える直接的影響
中国の人口は2022年にピークを迎え、すでに減少に転じている。出生率の低下と高齢者人口の
急増により、労働力人口は急速に縮小している。この状況は、PLAの兵力確保に直結する問題だ
。PLAは約200万人の現役兵を擁するが、若年層の人口減少により、新兵募集の基盤が狭まってい
る。特に、技術進歩に伴い、現代の戦争では高度な教育を受けた人材が必要不可欠だが、若者の
数が減る中で質の高い兵士を確保することはますます難しくなる。
さらに、少子高齢化は軍事予算にも影響を及ぼす。中国経済は人口ボーナス期の恩恵を受けて
急速に成長してきたが、労働力人口の減少と高齢者への社会保障費の増大により、経済成長は鈍
化している。軍事費は国内総生産(GDP)に大きく依存するため、経済の停滞はPLAの近代化計
画に制約をもたらす。最新鋭の兵器開発や軍事インフラの整備には膨大な資金が必要だが、予算
縮小の圧力が高まれば、PLAの軍事力強化は停滞する恐れがある。
外交と地政学的影響
少子高齢化は、中国の外交戦略にも波及する。人口減少は国内市場の縮小を意味し、経済力の
低下は国際社会での影響力を弱める。PLAは「一帯一路」構想や南シナ海での領有権主張など、
積極的な対外政策を支える軍事力の基盤だが、人口問題による経済的制約は、これらの戦略を維
持する能力を損なう可能性がある。例えば、アフリカやアジアでのインフラ投資は、中国の経済
力と軍事プレゼンスを示す手段だが、資金不足により規模縮小を余儀なくされるかもしれない。
また、人口減少は労働力不足を招き、国内の産業基盤を弱体化させる。特に、軍事産業は高度な
技術力と安定的な労働力に依存しているが、若年労働者の減少は兵器生産や技術開発の遅れを招
く。これにより、PLAの戦闘力維持が困難になるだけでなく、米国や他のライバル国との技術格
差が広がるリスクも高まる。
人口半減のシナリオとPLAの未来
一部の人口学者は、2100年までに中国の人口が現在の14億人から半減する可能性を指摘してい
る。このシナリオが現実となれば、PLAの規模縮小は避けられない。兵力の減少は、単に戦闘員
の数だけでなく、軍事作戦全体の柔軟性や持続性に影響を与える。例えば、大規模な地上戦や長
期の軍事展開は、人的資源の不足により実行が困難になるだろう。
さらに、高齢化社会は国内の社会保障負担を増大させ、国民の不満を高める可能性がある。経
済的困窮や社会不安が広がれば、政府は国内の安定維持にリソースを割かざるを得ず、PLAの対
外活動への投資がさらに制限される。こうした状況は、中国が米国や他の大国と対等に渡り合う
力を弱め、地政学的なパワーバランスを変化させるだろう。
PLAの対応策と課題
PLAは、この危機に対応するため、技術革新や自動化技術の導入を加速させている。無人機や
AIを活用した兵器システムは、人的資源の不足を補う可能性がある。しかし、これらの技術は開
発に時間と資金を要し、即座に兵力不足を解消することはできない。また、AIやロボット技術が
どれほど進化しても、軍事作戦における人間の判断力や柔軟性は依然として不可欠だ。
出生率向上を目指した政府の政策も効果を上げていない。一人っ子政策の長期的な影響や、若
者の結婚・出産に対する消極的な姿勢は、短期間で変えることが難しい。PLAは、人口動態の変
化に適応するため、軍の構造改革や戦略の見直しを迫られているが、これが成功するかどうかは
不透明だ。
人民解放軍が直面する最大の脅威は、米軍の軍事力ではなく、少子高齢化による国内の構造的
問題である。人口減少は、兵力、予算、経済力、外交力のあらゆる面でPLAの能力を制約し、中
国の国際的地位に影響を与える。人口半減という最悪のシナリオが現実となれば、PLAの軍事力
は大幅に縮小し、地域や世界での影響力も低下するだろう。この危機を乗り越えるためには、技
術革新と社会政策の抜本的な改革が必要だが、その道のりは険しい。中国の未来は、少子高齢化
という「静かな脅威」との戦いに懸かっている。
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