2025/07/22
近年、「台湾有事」――すなわち、中国による台湾への軍事侵攻の可能性――が国際社会で注目を
集めている。このシナリオにおいて、米国が軍事介入するかどうかは、東アジアの安全保障環境
を左右する重要な要素である。しかし、米軍が介入しない、あるいは限定的な関与にとどまる可
能性も指摘されており、その背景には戦略的、経済的、政治的な要因が複雑に絡み合っている。
米国の曖昧戦略と介入の不確実性
米国は長年、台湾問題に対して「戦略的曖昧さ」を維持してきた。これは、台湾の安全保障を
支持しつつ、軍事介入の明確な約束を避ける政策である。1979年の台湾関係法では、米国は台湾
に防衛装備を提供し、平和的手段以外の台湾の将来を決定する試みを「重大な懸念」とみなすと
定めているが、直接的な軍事介入の義務は明記されていない。2022年、バイデン大統領が「台湾
防衛に軍事的に関与する用意がある」と発言した際は注目されたが、公式な政策変更とはみなさ
れず、曖昧さが依然として基調である。
米軍が介入しない可能性の一因は、米国内の世論と政治的優先順位にある。21世紀に入り、米
国は「世界の警察」としての役割を縮小する傾向にあり、イラクやアフガニスタンでの長期戦の
失敗が国民の戦争疲れを招いている。2022年のウクライナ戦争では、米国が直接派兵せず、兵器
供与や経済支援による「代理戦争」方式を採用したことが注目された。このモデルが台湾有事に
も適用される可能性があり、米軍の直接介入を避け、台湾への兵器支援や情報提供に限定するシ
ナリオが議論されている。米軍制服組トップが「台湾は防衛可能な島」として、ウクライナ方式
の支援を検討していると示唆したことも、この傾向を裏付ける。
戦略的・軍事的なハードル
軍事的な観点からも、米軍の介入には大きなハードルが存在する。中国海軍は近年急速に戦力
を増強し、2025年までに400隻、2030年までに440隻体制を目指しているとされる。これは米海軍
を上回る規模であり、台湾海峡での戦闘は米国にとって高いコストを伴う。米政府のシミュレー
ションでは、中国がジェット燃料供給や給油船を攻撃することで、米軍の海空軍力を麻痺させる
可能性が指摘されている。また、米軍の兵站ネットワークは集中しすぎており、中国のミサイル
攻撃やサイバー攻撃に対する脆弱性が課題とされている。これに対処するため、米国はアジア太
平洋地域に兵站拠点を分散させる努力を進めているが、準備は十分とは言えない。
さらに、台湾有事が長期化した場合、米軍は弾薬やミサイルの枯渇に直面する可能性が高い
。2024年の戦争シミュレーションでは、米海軍がミサイル防衛装備を使い果たすリスクが指摘さ
れた。このような軍事的な制約は、米国が全面介入を躊躇する要因となり得る。
経済的・地政学的なコスト
経済的な観点からも、米軍の介入には慎重な判断が求められる。台湾有事は日米中を含む世界
経済に壊滅的な影響を及ぼす。米国にとっても、中国との経済的相互依存関係やグローバルサプ
ライチェーンの混乱は深刻な問題である。外資系企業の中国撤退や制裁の応酬は、米国内の経済
的混乱を招き、介入への政治的抵抗を高めるだろう。
地政学的には、中国が日本や韓国など米軍の同盟国を牽制する「強制」戦略を取る可能性も指
摘されている。例えば、日本国内の米軍基地への攻撃は、日米安全保障条約に基づき日本を自動
的に戦争に巻き込む。この場合、米国は同盟国への責任と自国のリスクを天秤にかけざるを得ず
、介入の規模やタイミングが限定される可能性がある。
中国の戦略と米国の抑止力への影響
中国側も、台湾有事で米国を直接戦闘から遠ざける戦略を模索している。米国防大学の分析で
は、中国が「システム破壊戦」や「既成事実の積み重ね」を通じて、米軍の介入意欲を削ぐ可能
性が指摘されている。また、ウクライナ戦争で米国のエスカレーション回避姿勢が明らかになったことで、中国は日米同盟の信頼性に揺らぎを生じさせようとしている。米国が核保有国との全
面衝突を避ける傾向は、台湾有事における抑止力の信頼性を損なうリスクを高めている。
日本の立場と今後の課題
日本にとって、台湾有事は「日本有事」とも称されるほど緊密な問題である。沖縄や南西諸島
は戦場となる可能性が高く、米軍基地への攻撃は日本を自動的に紛争に巻き込む。しかし、米軍
が介入しない場合、台湾単独での防衛は困難であり、日本への影響も甚大である。CSISのシミュ
レーションでは、米軍の即時参戦や日本の基地使用許可が台湾防衛の鍵とされるが、米軍の不介
入は台湾防衛の失敗確率を飛躍的に高める。
TIMES
政治•経済



