2025/07/18
2025年7月10日、中国人民解放軍(PLA)の戦闘機が東シナ海上空の国際空域で航空自衛隊の戦
闘機に異常接近したことが、防衛省関係者への取材で明らかになった。この事案は、中国軍機に
よる同様の危険な接近行動としては2025年6月以来2度目であり、日本側は即時スクランブル(緊
急発進)を実施し、監視体制の強化と警告発信を行った。防衛省によると、今回の接近は中国側
が意図的に仕掛けた可能性が高く、航空自衛隊機との距離が一時的に数十メートルにまで縮まる
危険な状況だったという。このような接近は、偶発的な衝突リスクを高めるだけでなく、地域の
緊張を一層エスカレートさせる要因となる。
今回の事案は、東シナ海および西太平洋における中国の軍事プレゼンス拡大という大きな戦略
的文脈の中で位置づけられる。特に近年、中国海軍は空母「山東」や「遼寧」を中心とする空母
打撃群を活用した外洋訓練を頻繁に実施しており、台湾周辺海域からグアムやパラオを含む「第
二列島線」までの作戦範囲拡大を進めている。これらの空母は、単なる象徴的な存在を超え、遠
洋での戦闘能力や指揮統制能力の向上を目的とした実戦的な訓練を行っている。例えば、2025年5
月には「山東」が台湾東方海域で艦載機の発着艦訓練を実施し、米軍や日本の監視活動を牽制す
る動きを見せた。このような活動は、単なる軍事訓練の枠を超え、地域の戦略的バランスに直接
影響を与える力の誇示と解釈できる。
中国軍機による航空自衛隊機への異常接近も、海空一体のプレゼンス強化の一環と考えられる
。中国は「第一列島線」(日本列島、台湾、フィリピンを結ぶ線)を越え、「第二列島線」(伊
豆諸島からグアム、パプアニューギニアに至る線)までの戦略的進出を加速させている。この背
景には、尖閣諸島をめぐる領有権問題や、中国が一方的に設定した「防空識別圏(ADIZ)」の主
張がある。東シナ海は、地理的にも戦略的にも中国にとって重要なエリアであり、日本や米国に
対する牽制、情報収集、さらには領域支配の意志表明といった複合的な意図が指摘されている。
特に尖閣諸島周辺では、2024年以降、中国海警局の船舶が日本の領海に侵入する事案が頻発して
おり、今回の接近行為は空域での同様の挑発行動と連動している可能性が高い。
さらに、中国の行動は「グレーゾーン事態」の演出を意図しているとの分析もある。これは、
明確な武力衝突には至らないものの、周辺国の対応能力や意思を試し、心理的・戦略的圧力をか
ける戦術だ。例えば、中国軍機は自衛隊や米軍のレーダーや通信システムの反応を観察し、デー
タ収集を行うことで、将来の作戦に備えている可能性がある。また、こうした挑発行為は、国際
世論を分断し、日本や米国が強硬な対応を取ることを牽制する効果も狙っている。しかし、異常
接近は一歩間違えれば航空機同士の衝突や重大な事故につながりかねず、極めて危険な行為であ
る。過去には、2001年に海南島沖で米軍偵察機と中国軍機が衝突した事件があり、同様のリスク
が東シナ海でも懸念されている。
日本政府は今回の事案に対し、冷静かつ断固とした対応方針を示している。防衛省は、航空自
衛隊の監視体制を一層強化するとともに、米軍との情報共有や共同訓練を通じて抑止力を高める
計画だ。特に、2025年8月に予定されている日米共同訓練「アイアン・フィスト」は、中国の軍事
活動に対する明確なメッセージとなることが期待される。この訓練では、海上自衛隊と米海軍の
艦艇や航空機が参加し、共同での対潜戦や防空戦のシナリオが想定されている。さらに、日本は
豪州やインドとの安全保障協力も強化しており、クアッド(日米豪印)枠組みを通じた連携を深
めることで、中国の拡張主義に対抗する姿勢を明確にしている。
中国の海空軍事行動の活発化は、インド太平洋地域全体の安全保障環境に深刻な影響を与えて
いる。特に、東シナ海や南シナ海での中国の行動は、自由で開かれた国際秩序を脅かすものとし
て、日本、米国、ASEAN諸国、欧州諸国から強い懸念が表明されている。こうした状況下で、日
本をはじめとする関係国は、軍事的な抑止力の強化に加え、外交的な対話チャンネルの維持や、
誤算を防ぐための危機管理体制の構築が急務である。例えば、日中間では「海空連絡メカニズム
」が存在するが、今回の事案のような危険な接近を未然に防ぐには、より実効性のある運用が求
められる。
今後、中国の軍事活動はさらに活発化する可能性が高く、特に人工知能(AI)や無人機を活用
した新たな戦術の導入が予想される。これに対し、日本は自衛隊の近代化を加速させ、サイバー
防衛や宇宙領域での能力強化にも注力している。インド太平洋地域の安定を維持するためには、
ルールに基づく国際秩序の堅持と、志を同じくする国々との連携が不可欠だ。今回の事案は、そ
の重要性を改めて浮き彫りにしたといえる。
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