2025/07/08
近年、国際情勢の緊迫化に伴い、日本国内で核武装を主張する声が一部で高まっている。中国
やロシアの軍事力増強、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展を背景に、「日本も核武装して自国の
安全を確保すべきだ」との意見が散見される。しかし、安全保障研究の科学的知見に基づいて冷
静に分析すると、核武装は日本にとって逆効果となり得る。鍵となる概念は「安全保障のジレン
マ」だ。この現象を踏まえ、日本が核武装を選択すべきでない理由を説明する。
安全保障のジレンマとは何か
安全保障のジレンマとは、国際関係論における基本概念の一つである。ある国が自国の安全を
高めるために軍事力を強化すると、周辺国がその行動を脅威と受け止め、対抗して自国の軍事力
を増強する。この結果、双方の軍事力がエスカレートし、かえって地域全体の緊張が高まり、誰
もが安全でなくなるというパラドックスだ。冷戦時代の米ソ間の軍拡競争は、その典型例と言え
る。
日本の文脈で考えると、もし日本が核武装に踏み切れば、周辺国、特に中国や北朝鮮、さらに
は韓国やロシアがこれを重大な脅威と認識する可能性が高い。これらの国々が対抗措置として軍
事力を増強したり、新たな同盟を模索したりすれば、東アジアの安全保障環境は一層不安定にな
る。日本の核武装が、かえって自国の安全を損なう結果を招くのだ。
日本の核武装がもたらすリスク
第一に、中国や北朝鮮の軍事的反発が予想される。中国は既に核保有国であり、日本の核武装
は中国の軍事ドクトリンや予算配分に影響を与えるだろう。たとえば、核戦力の増強や新たなミ
サイル配備、さらにはサイバー戦能力の強化など、対抗措置を講じる可能性が高い。北朝鮮も同
様に、核・ミサイル開発を加速させ、日本を標的とした挑発行動を増やすかもしれない。これに
より、日本はより直接的な脅威に晒されることになる。
第二に、地域の同盟関係に亀裂が生じる危険がある。日本は現在、米国との安全保障条約を基
盤に防衛力を構築している。米国は日本に対し「核の傘」を提供しており、これが日本の安全保
障の柱となっている。しかし、日本が独自の核武装を進めれば、米国との信頼関係が揺らぎ、同
盟の結束力が弱まる可能性がある。また、韓国との関係も複雑化する恐れも排除できない。韓国
は日本の核武装を自国への潜在的脅威とみなす可能性があり、独自の核開発や中国との接近を模
索するかもしれない。これにより、日米韓の協力体制が崩れ、東アジアの安全保障環境はさらに
不安定化する。
第三に、国際的な孤立を招くリスクがある。日本は核不拡散条約(NPT)に加盟しており、核
兵器の保有を禁じられている。核武装はNPTからの脱退を意味し、国際社会からの強い反発を招
く。経済制裁や外交的孤立は、日本の経済や国際的地位に深刻な打撃を与えるだろう。特に、資
源に乏しく貿易に依存する日本にとって、国際的孤立は致命的な影響を及ぼす。
代替案 日米同盟と多国間外交の強化
核武装に頼らずとも、日本には安全保障を強化する道がある。まず、米国との同盟関係をさら
に深化させることだ。日米安保条約に基づく米国の「核の傘」は、日本の防衛において依然とし
て有効な抑止力である。また、ミサイル防衛システムの強化やサイバー防衛能力の向上など、非
核の防衛力強化も重要だ。これにより、周辺国に対する抑止力を維持しつつ、安全保障のジレン
マを最小限に抑えることができる。
さらに、日本は21世紀に入って以降、オーストラリアやインド、英国やフランス、フィリピン
やベトナムなど価値観や戦略を共有する国々との防衛協力を強化しているが、こういった多国間
協力は今後よりいっそう重要になる。日本としては安全保障協力の多角化を進めることで、核保
有に頼らない政策を強化するべきだろう。
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