連載•小説 田沼意知暗殺の詳細を、オランダ商館長が記録していた
田沼意知暗殺の詳細を、オランダ商館長が記録していた
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2025/07/07

 老中・田沼意次の子、意知が暗殺された直後、江戸市中でよまれた落首「「鉢植えて/梅が桜と
咲く花を/たれたきつけて/佐野に斬らせた」は、歴史の教科書にも頻出している謡曲「鉢の木
」をもじったものだ。
旅の僧、実は名執権・北条時頼をもてなす際、薪の代わりに大事な鉢の木を切って焚いた貧し
い御家人・佐野源左衛門常世の「佐野」を佐野政言の「佐野」に重ね、誰かが政言をたきつけ
て桜や梅の木=意知を襲わせたという暗喩である。意知を桜や梅になぞらえているのを見ると
、意知の能力と将来性に期待していたよみ手の隠れた本音も汲み取れそうだ。
いずれにせよ意次にとっては実の息子を殺害されたことと、自らが持つ権力や推進中の政策・
プロジェクトを引継ぐ相手を不意に失ってしまったという意味で、二重の打撃となった。
ここで再び、オランダ商館長ティチング『日本風俗図誌』の記述を見てみよう。ティチングと母
国のオランダは、開国政策の引き継ぎ手として意知に対する期待が非常に大きかったことが、
同書の記述からもうかがい知れる。それだけに、その暗殺の状況についてはかなり詳しく書き
遺している。ティチングには幕府のそれなりのポジションにある高官に「ネタ元」がいたよう
だ。(つづく)

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