2025/04/17
須原屋市兵衛が手掛けた著名な出版物のもう一方『三国通覧図説』は、1785(天明5)年の出版。朝鮮・琉球・蝦夷という日本の近隣の国や島々について、その風俗を挿絵入りで紹介した書物である。
林子平はこの時代の経世論家。1778(安永7)年には幕府の知らぬところでロシアが松前藩に交易を申し入れてきていたが(松前藩は隠蔽)、幕府・人民の海外事情への関心の薄さに危機感を抱き、近隣諸国についての基礎知識に重点を置いた本書は、外圧を見越した先見の書として名高い。
市兵衛は、他にも『万国一器界万量総図』『天球之図』『地球一覧之図』『翻訳万国之図・同説』など地理・地図関連の先進的な出版物を続々と手掛けていった。
江戸期といえば出版物、特に海外の情報を扱ったものに対する規制とペナルティが厳しかったとの印象があるが、市兵衛が活躍したこの時期は規制が比較的緩やかで自由な時代だった。言うまでもなく、黄表紙のヒット連発に続いて江戸の狂歌ブームを大いに煽った蔦重もその恩恵に与った版元の一人だった。
そんな空気を世に広げた為政者が、他ならぬ田沼意次だった。意次の周囲には、直接接点のあった平賀源内、『解体新書』を意次に献上した杉田玄白のほか、後に『海国兵談』を著す林子平、松前藩や長崎の住人からのヒアリングでロシアの脅威を分析した『赤蝦夷風説考』を著した工藤平助、それを元に実際に蝦夷地の調査を行った幕府普請役の最上徳内等々、意次の周囲には、その開明的な気質に相応しい人材がうごめいていたのである。(つづく)
主な参考書籍:鈴木俊幸『絵草子屋 江戸の浮世絵ショップ』平凡社
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